MEBエントリープラットフォームを最初に採用する
意外なことに、初のMEBエントリープラットフォームを採用するのは、フォルクスワーゲンブランドのクルマではない。グループ傘下、スペインに本拠を置くセアトのさらにサブブランドであるクプラ(CUPRA)から登場する。車名は「ラバル(Raval)」だ。
クプラブランドのクルマは親会社のセアトと同じく日本では販売されていないが、そもそもセアトのモータースポーツ部門が2018年にブランドとして独立したものだ。フォルクスワーゲン車やセアト車とコンポーネンツを共用しつつ、独自色の強い個性的な車種展開が好評で、いまやセアトを凌ぐほどの人気を得ている。そんなクプラが満を持して投入するBセグメントのEVがラバルである。
フォルクスワーゲンにとっては、“孫”のような存在のブランドだが、こちらは開発当初よりフォルクスワーゲンID.2と同時期にデビューすることは決まっていたようだ。MEBエントリープラットフォーム、最高出力166kW/226psのモーター、38kWhまたは56kWhのバッテリーパックなど、主要コンポーネンツはID.2とまったく同じだ。
もっとも個性的な内外装、そしてシャシーのエンジニアリングはクプラ独自のものだ。今年9月中旬には公道でのテスト風景がネット上に出回ったが、ID.2との関連性はうかがえない。ちなみに56kWhバッテリー搭載車の航続距離は約450km(WLTP)。6.9秒で100km/hに達するのもID.2と変わらない。
ラバルの生産は、新たにバッテリー工場を併設したセアトのマルトレル工場が担当する。この新装された工場は、フォルクスワーゲングループの欧州圏工場では3番目の規模を誇る大規模なもの。ラバルを始め、MEBエントリープラットフォームを採用するセアトブランドのコンパクトEV、そして2026年にはフォルクスワーゲンのID.2ファミリーの生産を開始する予定だ。フォルクスワーゲングループにおける「メイド in スペイン」の新拠点となる。地の利を生かし、まずはラバルの生産が先行するのだろう。
ID.2ファミリーは2026年前半から順次発表へ
一方、本家のフォルクスワーゲンは厳しい状況下にある。社内外との調整にしばらく労力を割かれそうだが、事業ポートフォリオは粛々と進んでいきそうだ。
上述のとおり、関連会社のコンパクトEVから量産が始まるが、2026年前半からはID.2、ID.2派生コンパクトSUV、そしてGTIの3車種を順次生産開始する見込みだ。ポロとゴルフ(とID.3)の間に新生BセグメントEVラインナップを一気に揃えることで起死回生を狙う。その全車がスペインでの生産となるだろう。
さらに2027年にはAセグメントのエントリーEVも加わることになる。こちらは、以前、コストダウンを目的にルノーとの協業も伝わったが合意に至らなかったという報道もあった。現在は、MEBエントリープラットフォームを使ってフォルクスワーゲンが独自に開発を進めているようだ。
どちらかと言えば上位車から始まったフォルクスワーゲンのEVシフトだが、比較的安価なID.2ファミリー=MEBエントリープラットフォーム採用車の増殖によってEVの大衆化が加速するかもしれない。世界的にはEV販売が低迷しているものの、ルノーやステランティス(プジョー、シトロエン)は2025年までにアンダー2万5000ユーロのEVを発売する。フォルクスワーゲンはやや出遅れた感はあるものの、グループ全体で見れば巻き返しは十分に可能ではないだろうか。