米国でお墨付きを得た“道を走り空を飛ぶクルマ”
いままでeVTOL(電動垂直離着機)と言えば、翼やローターがキャビンの外に露出したドローン型がほとんど。それらを格納式として道路を走れる自動車タイプも研究されているが、それが実現するには時間がかかると予想されていた。
アレフ社がその実現に向けて大胆なプロジェクトをスタートしたのは2015年のこと。当時、すでに先行開発は進められており、実車をスケールダウンしたベアシャシのプロトタイプによる実験が繰り返されていたようだ。そして実車に近いボディをまとったコンセプトモデルを本拠地で初めて公開したのは2022年10月のこと。「モデルA」と名付けられ、飛行距離は最大110マイル(約177km)、走行距離は同200マイル(約321km)を謳った。しかも予定販売価格は30万ドル(約4315万円)と、億単位が多いeVTOLにあって破格に安い。同社には問い合わせが殺到し、すでに22年末の時点で440件を超える予約があったという。
米国では大変な注目を集めているモデルAが、2023年9月のデトロイトショーでの公開やデモ走行を経て、いよいよ量産開始に向けた準備が整ったようだ。すでに2023年6月にはアメリカ連邦航空局(FAA)から特別型式証明(テスト飛行)を取得しており、実機による飛行/走行テストが繰り返されている。ちなみにFAAがこの新しいタイプの乗り物に飛行許可を出したのは初めてのことだ。また、カリフォルニア州に取り扱いディーラー網の整備も進めている。
さらにボーイング社やエアバス社のパーツサプライヤーであるPUCARA Aero社およびMYC社と航空グレードのパーツ供給契約も締結している。契約に際して、アレフ社CEOのJim Dukhovny氏は、次のコメントを発表している。
「予約注文の数が日増しに増えて、量産車の最終デザインも決定に近づいている。(市販車では)安全性は最優先事項であるため、採用する部品は非の打ちどころのない実績があり、航空関連当局へのコンプライアンスのために、両社から部品を調達する契約を結びました」
市販開始までのお膳立てはほぼ整った。ただし、FAAは現在、eVTOL全般に関連する方針や法令案を策定中なので、生産が始まっても飛行できるのは限定されたエリアに留まる見込みだ。とは言え、2035年頃にはドローンなどの操縦免許があればだれでも全米各地で誰でも走行することができるようになると同社は予測している。
クルマだがいざという時にはeVTOLとして空を飛ぶ
御覧のとおり、モデルAには大きな翼は存在せず、8基のプロペラはすべてボディ内部に配置されている。いわゆるマルチコプター方式だが、揚力や推進力は多孔質のボディを通じて制御される仕組みだ。
キャビンはシャシに吊り下げられたカプセル型で2名乗車。1名は操縦の有資格者なので、実質的には1名乗りとなる。4〜5名乗車が可能なセダンタイプの開発プロジェクト「モデルZ」も立ち上がっており、こちらは2035年までに3万5000ドル(約505万円)という乗用EVに匹敵する低価格を実現するのが目標だ。
通常はクルマとして走行(最高速35マイル:約56km/h)し、たとえば渋滞に巻き込まれたら空を飛ぶ。アレフのモデルAは、なんとも贅沢な乗り物だ。SF映画の世界が、あと1年で現実になる。テクノロジーの進歩にはただただ驚くばかりだ。