2026年に発売する「EX60」が本格的なSDVになる
この発表を受けて、一部投資家の間では“欧州でもっとも先鋭的なEVシフト戦略を発表していたボルボが後退局面に入ったか?”と懸念する声もあったが、翌9月5日(現地時間)にはそんな不安を払拭するかのような発表が行われた。スウェーデンのヨーテボリで開催された投資家向けイベント「ボルボ・カーズ・キャピタル・マーケット・デイ」において、2026年に発表される「EX60」を皮切りに投入される新たなEVテクノロジーおよび商品戦略の概要が説明されたのだ。
ひとことで言えば、それはさらなるSDV化とそれに伴う生産改革のロードマップだ。まずは2026年にXC60の後継モデルにあたるオールエレクトリックのミディアムSUV「EX60」を発売。次世代SDVアーキテクチャー「SAP3」を採用し、併せて数々の生産改革を行うという。EX30より小さなクルマからEX90よりも大きな車両までカバー可能で、ソフト/ハードともに共通の基盤(SDVプラットフォーム)が用いられるようになるという。
現在のボルボEVラインナップに使われるプラットフォームは3種類。EX40とEC40が小〜中型EV用のCMA(Compact Modular Architecture)、EX90は中〜大型車用のSPA2(Scalable Product Architecture 2)と呼ばれる過渡期的な仕様を採用している(間もなく発表されるES90はSPA2の改良型)。EX30と中国専売の大型ミニバンEM90はともに親会社GeelyのSEA(Sustainable Experience Architecture)だ。現状は3種類が混在しているが、今後は「SAP3」をベースに統一することで、大小さまざまな車種の作り分けを行っていくようだ。
そのコアテクノロジーが、コンピューティング技術、すなわち独自の車載OSである。ボルボでは「ボルボ・カーズ・スーパーセット・テックスタック」と呼ぶ。EVプラットフォーム(いわゆるスケートボード部分)は車両サイズ別にモジュラー化されるが、その基盤技術は一本化される。また車載OSも統一されて車両の機能は統合制御される。その結果、開発に要する時間は大幅に短縮され、コストも大幅に圧縮される。あとは車種ごとに必要なソフトウェア(ボルボは“製品フレーバー”と呼んでいる)を選択するだけだ。随時、OTA(Over The Air)によってバージョンアップされるため、いつも最新モデルと同等の機能が維持される。ボルボも多くの自動車メーカーと同じく、2026年以降、本格的にSDVシフトを開始するのだ。
新アーキテクチャー「SPA3」に加えギガキャストも採用
SPA3の導入は、スウェーデン本国のトースランダ工場から始まり、現地ではその第一弾となるEX60の量産開始に向けた準備が整いつつあるという。待望のギガキャストマシンも導入され、生産工数とコストが大幅に圧縮されるようだ。今後、海外工場生産車にもSPA3が適用され、その収益性は現在よりも大幅に高まると予想されている。
ボルボが当初計画の2030年全車EV化を諦めたのは事実ではあるが、それは将来のEV開発計画を鈍化させるという意味ではない。あくまでPHEVやMHEVを市場動向や関税問題など流動的な問題に備えるための「橋渡し役」として存続させるということである。同様の戦略は、欧州のプレミアムメーカーも続々と採用を始めている。様子見をしつつも、今後もEVシフト/SDV化は着々と進んでいる、というのが大筋であることに変わりはないだろう。