経営側の言い分は
会社側は、コスト削減プログラムの進捗が十分でないことや、好転する見込みのない欧州市場や中国からの競争をあげてこの判断に至った理由としています。4日の説明会では、CFOのアルノ・アントリッツ氏が、VWブランドではコロナ前と較べて工場2個分の50万台の生産が減少したままで回復する見込みがないこと、長期的に見てもこの先1〜2年で対策を打たないと将来が危ぶまれることに理解を求めました。確かに、VW乗用車の欧州での販売台数は2019年の176万台から2023年に135万台と24%減少(※2)しています。またアナリストの多くも、VWグループの昨年の世界販売台数924万台に対して生産能力は1400万台あるとして、キャパシティの削減は不可避であるとの見方を示しています。※2:ACEA(欧州自動車工業会)発表データ(EU+UK+EFTA)による
8月1日発表の第2四半期の決算では、今年1〜6月のVWブランドの営業利益率はわずか2.3%で、営業利益(9億6,600ユーロ)はシュコダに抜かれました。アナリストからは追加のコスト削減や生産能力の調整は必要ないのかという質問が出ましたが、ブルーメCEOは、生産シフトを3→2に削減したりコストの高い夜勤を止めるなどの調整と、ドイツの人口動態による退職(自然減)で各工場の生産能力の25%削減が見通せていると、追加対策の必要性には言及しませんでした。
ブルーメCEOは、自らが打ち出した「トップ10」プログラムの下で、製品計画やプラットフォーム戦略を確定し、ソフトウェア開発の道筋を定め、中国戦略の見直しやコスト削減プランを策定して打つべき手は打った。今後はこれを実行し、何よりも「コスト、コスト、コスト」だと述べていました。またアントリッツ氏は、今後はVWパサートとシュコダ・シュパーブを同一工場で、開発中の小型EVのVW ID.2はシュコダモデルともども、スペインのマドリッドの工場1箇所に集約して生産する計画であることを明かし、グループシナジーを高めてコスト削減することを示しました。
工場閉鎖は計算された「脅し」?
ブルーメCEOがひと月前の決算発表では、追加コスト削減に触れなかったのは、まだ工場閉鎖について従業員協議会への話が済んでいなかったからでしょう。そして、当然この話は従業員代表にとっては驚きだったはずです。苦戦しているとはいえ、2024年も売上高は微増、利益は前年(225億ユーロ)並みを上げる見込みで、CEOが経営状態は「ステーブル(安定している)」と言っているわけですから。
今回の件は、まずヴォルフスブル近郊でVW幹部社員への説明後にステートメントが発表され、2日後に本社工場で従業員への説明集会となりましたが、本社工場従業員7万人の3分の1以上の参加にはさすがにVW経営陣も驚いたことでしょう。ただ一部アナリストには、経営側は派手に危機感を演出することで、今秋の賃金交渉(IGメタルは7%の賃上げ要求)や一人あたり最大45万ユーロともいわれる早期退職手当など労務費で譲歩を引き出す目論見という穿った見方もあるようです。
確かに本気で工場閉鎖をするなら、どの工場かを特定し、そこに絞って組合と交渉する方が現実的であり、ニュースの波及も限定的になるはずです。従業員への説明も、その特定の工場で行えば良いことです。従来から存続が危ぶまれていたのが、カルマン・ギアやゴルフカブリオレなどの少量生産モデルで歴史のあるオスナブルック工場や、かつてVWの最高級サルーン「フェートン」を組み立てたドレスデンの「ガラスの工場」などですが、それらは「大規模工場」とはいえません。今回閉鎖対象の工場を名指ししなかったのは、工場閉鎖まではできなくても、危機感を広く共有することで賃上げ交渉やコスト削減で一層協力を得たいと経営陣が考えているという見方はあながち的外れではないかも知れません。
しかし現状見る限り、労使協議会やドイツ最大の労働組合IGメタルが徹底抗戦の狼煙をあげ、「信頼関係が著しく毀損した」としてストライキも辞さないとの姿勢を見せている以上、経営側の置かれた状況は厳しいと言わざるを得ません。5日にザクセン州のツヴィッカウ工場で行われた説明会でも多くの従業員が「雇用保証!」などと記したバナーを掲げて参加しています。昨秋米国でUAW(全米自動車労組)が国内の労働者全般からの支持を背景に4年間で25%以上の賃上げや雇用維持を担保したように、低迷するドイツ経済の下で不安を抱える労働者層の連体に繋がる可能性があるからです。