テック産業と自動車産業の融合は進む
「bZ3X」は、トヨタ自動車、広州汽車、広汽トヨタ(GAC Toyota)、そして中国におけるトヨタの電動化/知能化の開発拠点であるIEM by TOYOTAが共同開発したトヨタbZシリーズ第3弾だ。その量産仕様車は、2024年4月に開催された北京モーターショーで「bZ3C(BYDや一汽車トヨタと共同開発)」とともに初公開されている。
その後、6月28日に開催された広汽トヨタの技術説明会「インテリジェントテクノロジーアドバンスト」において、bZ3Xに搭載される高度運転支援システム(ADAS)が「TOYOTA PILOT」と名付けられた最先端の“NOA” (Navigation on AutopilotあるいはNavigation on ADAS)であることが初めて明かされている。
NOAはナビゲーションで目的地を設定すればシステムが運転/操縦を行い、ドライバーはいつでも運転に復帰できるように監視する運転支援システムだ。自動運転レベルでは、レベル2に相当するが、その様子は一般にイメージされる“自動運転”そのものだ。中国では高速道路NOAが急速に普及しつつあり、一部のプレミアムカーでは市街地にも対応したNOAが搭載されるようになっている。
「TOYOTA PILOT」では、LiDARを併用するが主体はカメラ映像であり高精度マップをリアルタイムで生成する最新のNOAだ。高速道路はもちろん市街地まで、運転操作を必要とせずにまるでドライバーが運転しているかのようにスムーズに走るという。
その開発は、トヨタも出資する自動運転スタートアップ企業「Momenta(モメンタ)」が主導している。NVIDIAの自動運転用SoC(Orin-x)をコアに、11台の超高精度カメラ、5台のミリ波レーダー、12台の超音波レーダー、1台の LiDARで構成されている。
さらに、今回はMomentaとの協業を前面に押し出してアピールしているが、インフォテインメントシステムにはHUAWEI(ファーウェイ)のテクノロジーも採用されていることは間違いない。つまり、MomentaのNOA技術とファーウェイの通信テクノロジーを、トヨタが重層的に統合した最新AIの集大成が「TOYOTA PILOT」なのだ。
プレミアムEVの装備を410万円以下の量販車で実現
NOAの搭載が急激に進んでいるが、残念ながらこれを搭載している日本ブランド車は1台もなかった。ましてや市街地までカバーするNOAは上述のとおり中国でもまだ一部車種にしか搭載されていない。
bZ3Xは高速道路から市街地までカバーするNOAを搭載しながら、20万元(およそ410万円)以下の量販価格帯で実現してしまった。これがきっかけとなって、中国EV開発競争のさらに激化することは間違いない。現地のライバルたちもこぞって追随せざるを得なくなる。
ちなみにメルセデス・ベンツもMomentaに出資しており、次期CLA(2025年5月より生産開始予定)には、中国仕様車にMomentaのNOAを搭載する可能性が高いようだ。
SDV化の進展とともにメーカーに求められる課題
この最新のNOAをぜひとも日本でも体験してみたいのだが、残念ながらbZ3Xは中国専売車である。市街地ADASを始め自動運転関連技術は国や地域によって法規制や解釈がまちまちで、その恩恵をすべての人が享受できる段階にはまだない。
たとえば、テスラFSDの最新版は最近日本で頒布開始されたが、残念ながら利用できる機能は米本国に比べまだ限定的だ。ゆくゆくは、日本国内版のNOAが登場するはずだが、それはまだしばらく先のことになるだろう。
また欧米では情報漏洩など、中国テック企業に対して安全保障上のリスクを懸念する声もある。一方で中国政府も輸入EVによるデータ流出を警戒しており、輸入車の通信機能に制限をかけている。EVは性能競争の時代から、SDV化に伴うソフトウェアを競い合う時代に移行しつつあるが、そこに新たな障壁が生まれつつある。
各国で仕様を共通化してコスト低減に邁進できれば良いのだが、自動運転が普及しSDV化が進めば進むほど、自動車メーカーは国/地域に特化した技術対応を迫られるようになるというのは皮肉ではある。トヨタがbZ3Xを中国専売としているのは、こうした背景とも無関係ではないだろうし、当然、グローバル展開する他の自動車メーカーにもその対応が求められている。自動車業界は、今後も波乱含みとなりそうな気配だ。