スズキが今秋に国内発売を予告しているコンパクトSUV「フロンクス」。すでにインドでは姉妹車となるトヨタの「アーバンクルーザー タイザー」も発売されている。両車は単なるOEMの関係ではなく、開発段階から互いの知見を採り入れた文字どおりの共同開発車なのだ。そして2025年1月には、両社が力を合わせて開発した新たなEVとなるコンパクトSUVが誕生するが、これも同様な兄弟車となる。(タイトル写真は2023年1月にインドで開催されたオートエキスポで初公開時の「eVX(初期型)」)

eVXはスズキとトヨタの知見を持ち寄った共同開発車

結論から先に言ってしまうと、スズキがコンセプトカーとして発表した「eVX」は、トヨタとの実質的な共同開発車と呼んでいいだろう。トヨタ流マルチパスウェイ技術を導入したEVプラットフォーム、アイシン製eAxel、BYD製のバッテリーセルなどトヨタの知見を得ながら、小型車作りに長けたスズキがコンパクトなEVとしてまとめあげたのが「eVX」の正体である。量産型は2025年1月にデリーで開催されるオートエキスポで正式発表される。

スズキとトヨタは2017年に「業務提携覚書」を締結。スズキの小型車開発技術とトヨタの電動化技術および生産の共有を模索してきた。その最初の成果とも言えるのが、2022年7月にインドで発表された「スズキ グランドビターラ」であり「トヨタ アーバンクルーザーハイライダー」である。いわゆる姉妹車であるが、バッジの付け替えではなく開発も両社で行い、それぞれ自社製のパワーユニットを搭載している。

その第2弾は、2023年4月にインドで発表され今秋に日本でも発売が始まる「フロンクス」だ。また2024年4月には、フロンクスをもとにトヨタが独自の内外装トリムおよびパワーユニット(1Lガソリンターボ、1.2Lガソリン、1.2L E-CNG)を搭載した「アーバンクルーザー タイザー」を発表。インド、南アフリカ、そして欧州での販売を開始している。発表が1年遅れたのは、生産工場のスケジュールとエンジンの適合性などに時間を要したためだと思われる。

画像: スズキ フロンクス

スズキ フロンクス

画像: 写真上がスズキ フロンクス、下がトヨタのアーバンクルーザー タイザー。2社による共同開発車の第2弾だ。パワーユニットはそれぞれ自社製を搭載している。

写真上がスズキ フロンクス、下がトヨタのアーバンクルーザー タイザー。2社による共同開発車の第2弾だ。パワーユニットはそれぞれ自社製を搭載している。

協業第3弾はスズキにとっては初のグローバルEV

両社の協業はさらに続く。EVモデルの共同開発だ。そのヒントはトヨタが2021年12月に開催された「バッテリーEV戦略に関する説明会」にあった。同説明会では開発中のEV(大半はモックアップながら)が数多く公開されたが、そのなかにあったコンパクトな「bZスモールクロスオーバー」こそ、当時開発の初期段階にあった電動SUVのモックアップだったというわけだ。

画像: 2021年12月にトヨタが開催した「バッテリーEV戦略に関する説明会」で今後のEVラインナップのひとつとして展示された「bZスモールクロスオーバー」。

2021年12月にトヨタが開催した「バッテリーEV戦略に関する説明会」で今後のEVラインナップのひとつとして展示された「bZスモールクロスオーバー」。

その後、スズキは2023年1月にインドで初のグローバルEVのコンセプトモデル「eVX」を発表、同年10月のジャパンモビリティショー2023(JMS2023)ではより市販型に寄った外装デザインを公開し、併せて内装(こちらは極めてコンセプトカー的だったが)も公開した。ボディサイズは全長4300×全幅1800×全高1600mm。インドで初公開時には、60kWhのバッテリーを搭載し、航続距離は550kmと謳われたが、JMS出展時には航続距離のみ500kmと発表されていた。

画像: JMS2023に出展された「eVX」。デリーのオートエキスポに出品された車両をアップデートしている。

JMS2023に出展された「eVX」。デリーのオートエキスポに出品された車両をアップデートしている。

一方、トヨタは2023年12月に欧州で「アーバンSUVコンセプト」を初公開。こちらは全長4300×全幅1820×全高1620mmと発表され、全幅と全高がeVXよりもわずかに大きいが、見比べてみると多くを共用していることがわかる。とくにウエストラインやウインドーまわりの処理はほぼeVXと同じだ。

当時はヤリスクロスの次期型とも囁かれたが、どうやらその予想は外れたよう。おそらく車名は「bZ〜(bZ2X?)」となるだろう。当時は2024年に発売予定とアナウンスされたが、やや遅れて年度内(2025年1月?)の発表となるかも知れない。

画像: トヨタが2023年12月に欧州で発表した「アーバンSUVコンセプト」。

トヨタが2023年12月に欧州で発表した「アーバンSUVコンセプト」。

eVXは2024年11月下旬もしくは12月よりインド西部グジャラート工場のCラインでの生産開始が予定されている。正式発表は上述のとおり、2025年1月だ。まずはインド国内および欧州向けの左ハンドル車の生産が始まり、日本向けの生産は同年半ば以降となりそうだ。その後は南アフリカや台湾、中南米など世界展開を予定している。

画像: スズキ eVX

スズキ eVX

画像: 写真上がeVX、下がアーバンSUVコンセプト。撮影アングルが異なるのでわかりにくいかも知れないがキャビン形状や前後サイドパネルはほぼ同じ。ボディサイズもきわめて近い。

写真上がeVX、下がアーバンSUVコンセプト。撮影アングルが異なるのでわかりにくいかも知れないがキャビン形状や前後サイドパネルはほぼ同じ。ボディサイズもきわめて近い。

そしておそらく同時期に、トヨタもアーバンSUVコンセプトの市販モデルを欧州市場向けに投入するはず。その生産はトヨタがインドに建設したキルロスカ・モーター(TKM)が行うのか、もしくはスズキ・グジャラート工場が担当するのかは現時点では不明であるが、ほぼ同時期に生産が立ち上がるのは間違いなさそうだ。

スズキは2030年までにインドでEVを6モデル投入

インドはスズキにとって最重要市場であり、スズキ4輪車の世界販売台数(300万台:2022年度)のうち約55%を占める。現地でのシェアは42.1%(2023年度上半期)と他社を圧倒している。

画像: スズキの予想する将来の電動車比率。EV比率は日本とインドは緩やかに成長するとみている。(出典:スズキ「インド市場の現状とスズキの展望」より抜粋)

スズキの予想する将来の電動車比率。EV比率は日本とインドは緩やかに成長するとみている。(出典:スズキ「インド市場の現状とスズキの展望」より抜粋)

しかし、昨今ではタタやマヒンドラなど現地自動車メーカーも成長してきており、さらにインド全体市場は2030年には600万台に膨れ上がるとあって、他の日本メーカー、ヒョンデ/キア、そして一部の欧州メーカーや米テスラなども攻勢をかけている。中国勢の進出も時間の問題だ。

画像: 6モデルの中には日本で2025年以降に発売される軽乗用EV(次期ハスラーのEVモデル?)をベースにしたコンパクトEVモデルも含まれるようだ。

6モデルの中には日本で2025年以降に発売される軽乗用EV(次期ハスラーのEVモデル?)をベースにしたコンパクトEVモデルも含まれるようだ。

そんな激化する成長市場において、2030年にシェア50%を達成するのがスズキの掲げる目標である。さらに今後の欧州や東南アジア向け小型車両の生産拠点として、インドの各工場の生産能力を強化していきたい思惑も重なる。その切り札として、2030年までにEVモデルを6車種投入する計画だ。その実現のためにも、トヨタとの関係はますます深まっていくに違いない。

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