専門家からは疑問の声も上がる新生産方式だが
もっとも、このまったく新しい生産プロセスには専門家筋を中心に懐疑的な声も多い。まず、3つに分割されたアンダーボディと、左右に分割されたアッパーボディをどのような方法で結合するのか。従来工法によるモノコックボディと同等以上の車体剛性を実現するのは至難の業だと指摘する専門家も少なくない。剛性が低いということは、自動車の基本性能「走る」、「曲がる」、「止まる」に大きな影響をもたらすとともに、耐久性にも大きく影響する。さらに最終段階の組付け作業には寸分の狂いも許されない高精度の技術が必要となる。
果たしてこれらの課題をテスラはどのような手法で解決するのだろうか。当初、「モデル2」はメキシコに建設中のギガ・メキシコでの生産立ち上げを予定していたが、まずはギガ・テキサスで量産がはじまることになったようだ。上述の課題克服には、すでにモデルYでモジュール生産の“予習”を済ませているギガ・テキサスで生産を立ち上げるのが合理的だと判断したのだろうか。とはいえ、現段階では詳細は不明である。
ライバル各社も新たな生産方式を続々と採用へ
ただし、従来プロセスの限界に気づいているのはテスラだけではない。ほかならぬトヨタも、実は2026年に発売予定の次世代EVからアンボックスプロセスと着想が近い生産方式を導入することを明らかにしている。 “ベルトコンベアのない工場”を謳い、ギガキャストで生産される前後アンダーボディにフロア部材を兼ねたバッテリーパックを結合、組み上ったアンダーボディが工場内を無線で移動する自走組み立てラインを採用するという。
アッパーボディは従来工法を継承するようだが、これも組み立ての最終段階でアンダーボディと結合される。この方式で、生産までの準備期間・生産工程・工場投資などが従来の2分の1まで圧縮され、かかっていたコストも大幅に短縮される。
また日産も3月25日に発表した新経営計画「The Arc」の中で「次世代モジュール生産」と銘打った次世代EV生産プロセスを公表した。同時配信された動画を見る限りアッパーボディは一体構造のモノコックだがすでに塗装済みとなっており、アンダーボディにはサスペンションや3-in-1のコンパクトなパワートレーンが搭載済みだ。この次世代モジュール生産は、ごく近い将来に登場するCセグメントのSUVから順次採用していくという。
モジュール生産方式は、おそらく2020年台後半にはEV生産プロセスのスタンダードになると思われる。EVの価格は下がり続け、各方面で予測されているように2030年代前半には現在のガソリン車と大差ない水準まで下がるだろう。
しかし、テスラが企てているようにアッパーボディまでモジュール化するのはハードルが高く、トヨタも日産も現段階ではそこまで手を付ける様子はない。となれば、「モデル2」およびテスラの優位性はしばらくのあいだ担保される。2025年後半、世界は再びテスラのイノベーションを目の当たりにすることになるだろう。