電動ダクテッドファン×VTOLによるメリット
VTOL(垂直離着陸機)と言われると、大抵の人がヘリコプターやドローンのような大きなプロペラを装備した航空機を想像するだろうが、これはディスク・ローディング(回転面荷重)とホバリング効率の相関関係から説明できる。
竹とんぼを自作したことがある方ならイメージをつかみやすいと思うが、ざっくりといえばプロペラ径が大きくなるほど同じパワーでもより大きな推力(揚力)を得られる。つまり、ホバリング効率が向上する代わりに高速飛行には向かなくなるため、垂直離着陸の性能を重視するヘリコプターやドローンなどは大きいプロペラやローターを、高速飛行性能を重視する航空機は小さいプロペラを採用しているわけである。
以上の話を踏まえた上でリリウムジェットの設計を見てみると、電動ジェット部分にリフトファン機構を搭載する垂直離着陸が可能な固定翼機として、高速飛行時の効率を重視した設計にされていることがわかる。
これにより、オスプレイのようなチルトローター機(大径ローター搭載でプロペラの向きを変えることでホバリングする航空機)と比べ、ホバリング性能(離着陸時の効率)が50%悪いというデメリットを抱える。しかし、航続距離50km未満の“空飛ぶクルマ” とは異なり、航続距離200km(将来的に500km)を想定する本機では、飛行全体の90~95%を占める水平飛行時に特化した機体設計により、飛行全体の総合的な効率を向上することによって、この弱点を補うことにしたのだ。
搭載するエンジンもユニークで、リリウム社によれば「純電動ジェットエンジン」がフラップに埋め込まれており、カナード(前翼)に12個、主翼に24個の合計36個で構成されているようだ。しかも、このエンジンは可変ノズルを装備し、ホバリングモード時には開放、巡航飛行(高速飛行)時には絞ることでエンジン推力の効率化を実現している。
ちなみに、プロペラむき出しではないダクテッドファン形式(プロペラの周囲が円筒で囲われている形式)を採用したことで、ダクトがない場合と比較したホバリング時の効率が40%向上し、一般的なジェットエンジンと同様に音響ライナーも装備することで、騒音の大幅な低減を達成し、高度100m以下の低空でホバリング飛行している時以外は、飛行音が聞こえないレベルにすることが可能だそうだ。
また、リリウムジェットは顧客のニーズに合わせて5人乗り、7人乗りの2パターンの座席レイアウトが用意されているので、空飛ぶクルマ以上小型ジェット機以下の市場を見据えて設計されていることがうかがえる。
欧州、米国両方の認証基盤を持つeVTOLメーカーに
2023年11月27日(独現地時間)、リリウム社はEASA(欧州航空安全機関)から設計組織の承認(DOA)を取得。これはリリウム社がEU域内で型式証明を取得する権利を持った責任ある航空機メーカーとして認められたことを意味し、またこれにより6月のFAA(アメリカ連邦航空局)G-1認証発行と合わせ、今後の型式認証取得を欧州・米国同時に行うことが可能になった。
リリウム社は「パワード・リフトeVTOL」に関して、EASAとFAA両方の認証基盤を持つ唯一の航空機メーカーになったとしており、今後の商用化に向けた動きに要注目である。