その2、中国は「脅威」ではなく「好敵手」
今回のIAAでは、欧州市場に迫り来る中国メーカーにドイツがどう対応しようとしているのかも焦点の一つでした。屋外でもメッセ会場でも、ドイツ国外のメーカーとしては最大のスペースに展示して大きな存在感を示したBYDを筆頭に、メッセ会場には東風柳州汽車やLeap motorなどのEV専業メーカーや、CATLやCALBなどの電池メーカー、また屋外会場では、VWから出資を受けたシャオペン(Xpeng)が展示ブースを出しました。
また、メッセのサミット棟では、主催者が中国会議(China Conference)と呼ぶ「世界新エネルギー車会議(World New Energy Vehicle Congress)」が中国外で初めて開催され、ドイツメーカー3社(VW、メルセデス、BMW)に中国側からは、上海汽車やBYD、長安汽車、NIOなど中国の自動車メーカーや電池メーカーのトップが勢揃いして講演を行い、「自由で開かれた市場と相互協力」によってグリーンなモビリティを推進して行くことの重要性を確認し合いました。
ドイツ自動車産業にとって、中国は3〜4割の売り上げを占める最重要市場です。NEVの成功でシェアが5割を超えた中国メーカーの躍進で、ドイツを始め海外メーカーが謳歌した時代は終焉しつつありますが、年間2800万台という巨大な需要を持つ中国市場を維持することが、ドイツにとって死活問題であることは言を待ちません。両国は生産工場やR&Dへの投資やサプライチェーンなどで、すでに切っても切れない深い関係にあり、中国メーカーがドイツのホームグラウンドに進出することを拒むことは実質不可能です。
一部のメディア報道では、「ミュンヘンショーでは、中国がドイツを圧倒した」、「ドイツ自動車産業は落日の危機にある」と言った論調がありますが、ドイツはコロナ禍が明けた中国市場において“rude awakening(驚き痛い目にあっている)”を経験しましたが、その現実を厳然と直視して、EVの車台やソフトウェアの開発スピードを挽回すべく懸命にシフトチェンジをしようとしているのです。
VWの出資を受け、同社に中国市場でEVプラットフォームを提供するシャオペンのブライアン・グーCEOは、「ドイツメーカーは最大級の危機感を感じ、変化する決意を見せている」 逆に中国メーカーは、「規模やブランディング、投資の効率化などをドイツから学ばなければいけない」とライバルに対する敬意を表しています。(「 」内はロイター記事より引用)
パネルディスカッションに参加したショルツ首相は、「(中国との)競争は『脅威』ではなく奮い立たせるもの(Competition should spur us on, not scare us)」と発言し、EVを軸とする将来の競争にドイツ自動車産業は十分伍していけると自信を示しました。これは、ドイツ自動車産業界の声を代弁しているとも言えるでしょう。実際、会期中に何度も登壇したドイツ3大自動車メーカーのトップからは、脅威を強調したり、保護主義的な措置を促すような発言は一切なく、切磋琢磨して行くというトーンで一貫していました。
こうしたドイツと中国のトップのやり取りを見ていると、世界の、少なくとも欧州における自動車産業は、今後ドイツと中国を軸に回っていくかもしれないという感想を抱きます。今回のIAAに、日本メーカーの姿が見えないことを寂しく思わせる瞬間でもありました。