EVだけで事業を考えていないから値下げができる
日本では、テスラのイメージはあくまでEVに特化した自動車メーカーにとどまっているのではないだろうか。しかし、その実態は総合エネルギー事業会社だ。急速充電器、蓄電池事業を始め、ソーラーパネル、ソーラールーフなどの発電事業までを手掛けている。
もちろん、そのすべてが互いに関連しているわけだが、乱暴に言えば、EVの開発・設計・製造はそのビジネスを成功させるための事業のひとつである。その点が既存の自動車メーカーの立ち位置とは大きく異なる。
つい最近もそれを改めて認識させられる出来事があった。去る6月27日、北米の自動車向け技術の標準化団体SAE Internationalが、急速充電器の充電規格「NACS」を北米標準規格とすることを発表したのだ。
NACSはテスラが開発から生産、そして運用まで手掛ける「テスラ スーパーチャージャー」に採用している技術である。すでにフォード、GM、リビアン、そして欧州勢ではボルボ(とポールスター)、さらにメルセデスベンツまでがこのネットワークに参加することを発表した。他の欧州メーカーや日本の自動車メーカーも、これに追従せざるを得ないだろう。
繰り返しになるが、テスラは「スーパーチャージャー」を内製しており、さらにはその設置や運用まで自社で行っているという点は重要だ。
もちろん、既存の充電事業者も今後はNACS規格に準拠した充電器を開発・運営せざるを得ないが、すでに北米市場(北米、カナダ、メキシコ)だけでも1万2000基のスーパーチャージャーを設置済みのテスラが得るスケールメリットは、今後の増設なども含め途方もない利益を生むだろう。電力事業としての成功は言わずもがなである。
テスラは、スーパーチャージャーの設置ととも屋根を付けてソーラーパネルを設置し、さらに蓄電池まで設置するチャージングステーションも続々設置している。
発電、消費から貯蔵まですべて自社で開発・生産した製品でまかなう、まさに持続可能なエネルギー企業なのだ。充電機器の製造販売による利益と電力事業者としての顔をもつテスラ。それがわかれば、値下げしてでもより多くのEVを販売する意図が理解できるだろう。