ホンダの新事業創出プログラム「IGNITION(イグニッション)」から生まれたベンチャー企業である「株式会社 ストリーモ」が、今月施行の改正道路交通法に対応した特定小型原動機付自転車仕様の「ストリーモS01JT」を6月28日に発表した。独自の「バランスアシストシステム」により、停止時にも自立する機能を有するストリーモだが、この機能はどのような仕組みで実現できたのだろうか? 最新の「ストリーモS01JT」の細部を観察し、考察してみた。

「バランスアシストシステム」には、ホンダのDNAが流れている?

昨年(2022年)の夏、私(筆者)は月刊オートバイ誌のストリーモ取材に同行し、代表取締役・技術責任者の森 庸太朗さん、取締役・開発責任者の岸川 景介さんに、ストリーモについて話をうかがったことがある。一番関心があったのは、特許取得済みのストリーモの技術「バランスアシストシステム」についてだった。

停車時に地上から低い位置に面があるステップ(フロア)から片足をおろし、地面に足を着いて車体を支えるのは、多くの人にとって苦役の部類に入る動作ではないだろう。だがそれが頻繁な回数になるとすれば、その動作を省けることに文句をいう人はいるまい。また「バランスアシストシステム」には、人の歩行速度並みの極低速でも安定した走行が可能で、20kgの荷物を乗せての走行でもバランスを保持してくれるそうだ。

傾きを検知するセンサーと電気モーターを使って「バランスアシストシステム」は機能しているのか? と質問したところ、そのような複雑な電子制御は使っていない、もっとシンプルな仕組みであるとの答えが返ってきた。その内容を詳しく聞き出そうと質問を続けたが、両者の口は非常に堅く、終ぞその秘密を聞き出すことはかなわなかった。

後日、特許協力条約に基づいて公開された国際出願(出願番号PCT/P2021/037877)を調べてみたところ、文中に出てきたある単語に興味をそそられた。ストリーモは前フレームと後フレームを揺動部で連結する車体構造だが、その揺動部は「ナイトハルトゴムばね」を有しているのだ。

画像: 2022年5月に公開された、ストリーモの特許図。「30」が前フレームと後フレームを連結する揺動部だ。 www.wipo.int

2022年5月に公開された、ストリーモの特許図。「30」が前フレームと後フレームを連結する揺動部だ。

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画像: 揺動部に設けられた「ナイトハルトゴムばね」の、皆略構成を示す断面図。ケース(311)の中に、ゴムローラー(314)とカムブロック(313)が入っている。なおナイトハルトゴムばねは、スイス人のヘルマン ナイトハルトが発明した技術だ。 www.wipo.int

揺動部に設けられた「ナイトハルトゴムばね」の、皆略構成を示す断面図。ケース(311)の中に、ゴムローラー(314)とカムブロック(313)が入っている。なおナイトハルトゴムばねは、スイス人のヘルマン ナイトハルトが発明した技術だ。

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「ナイトハルト」と聞いて、旧い国産2&4輪好きの方はマツダR360クーペやヤマハモペットMF-1(ともに1960年)などのサスペンションを思い出したかもしれない。そして熱心なホンダファンを自認する人であれば、1981年11月発売の「ストリーム」を端とするジャイロシリーズなどのホンダ製3輪スクーターを思い浮かべるのではないだろうか?

画像: ジャイロシリーズの初代、ジャイロXは、1982年10月にデビュー。ノンスリップデフ機構やワイルドパターンの低圧ワイドタイヤなどを採用し、その価格は17万9000円だった。 www.honda.co.jp

ジャイロシリーズの初代、ジャイロXは、1982年10月にデビュー。ノンスリップデフ機構やワイルドパターンの低圧ワイドタイヤなどを採用し、その価格は17万9000円だった。

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画像: ホンダの電動3輪スクーター、「GYRO e:」のスイング機構。ナイトハルトゴムばねの変形の反力によって、適度な復元力を発生させている。この仕組みにより、安定感のあるコーナリングを可能としているのだ。 www.honda.co.jp

ホンダの電動3輪スクーター、「GYRO e:」のスイング機構。ナイトハルトゴムばねの変形の反力によって、適度な復元力を発生させている。この仕組みにより、安定感のあるコーナリングを可能としているのだ。

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画像: GYRO e:のスイング機構の説明図。正立時は丸断面のナイトハルトゴムばねが、左右に前フレームをバンクさせたときカムブロックとケースによって楕円状に押し潰されているのがわかる。 www.honda.co.jp

GYRO e:のスイング機構の説明図。正立時は丸断面のナイトハルトゴムばねが、左右に前フレームをバンクさせたときカムブロックとケースによって楕円状に押し潰されているのがわかる。

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ホンダでモーターサイクル造りに従事していた森、岸川両氏のキャリアを考えれば、40年以上の伝統と実績を持つホンダ製3輪スクーターに採用されるナイトハルト機構を、ストリーモに盛り込むことは自然なことのように思える。

しかし特許の文章を精読したところ、ストリーモはホンダ式のナイトハルト機構をそのまま採用しているとは、断言することができなくなる。カムブロックは四角形上ではなく、他の多角形状(たとえば三角)でも良い・・・。カムブロックすべての面が凹状でなく、たとえば2面が凹状で、これら凹状の面に対向してゴムローラーを配置しても良い・・・。そしてゴムばねではなく、オイルばねなどの弾性部材で復元力を作用させても良い・・・と、揺動部について記述されていた。

6月末に、東京都江東区の日本科学未来館で行われた新型ストリーモS01JTの発表会および試乗会の席で、約1年ぶりにお会いした岸川さんに「やはりココは、ナイトハルトですか?」と不躾にも単刀直入の質問をしてみた。否定も肯定もせず、ニコリと笑顔の岸川さんは「まだ明かせないですね」と答えた。ストリーモの揺動部・・・バランスアシストシステムの真相を明らかにするには、抽選販売に応募して実車を運良く入手し、当該箇所を分解してこの目で確かめるしかないのかもしれない(苦笑)。

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