「バランスアシストシステム」には、ホンダのDNAが流れている?
昨年(2022年)の夏、私(筆者)は月刊オートバイ誌のストリーモ取材に同行し、代表取締役・技術責任者の森 庸太朗さん、取締役・開発責任者の岸川 景介さんに、ストリーモについて話をうかがったことがある。一番関心があったのは、特許取得済みのストリーモの技術「バランスアシストシステム」についてだった。
停車時に地上から低い位置に面があるステップ(フロア)から片足をおろし、地面に足を着いて車体を支えるのは、多くの人にとって苦役の部類に入る動作ではないだろう。だがそれが頻繁な回数になるとすれば、その動作を省けることに文句をいう人はいるまい。また「バランスアシストシステム」には、人の歩行速度並みの極低速でも安定した走行が可能で、20kgの荷物を乗せての走行でもバランスを保持してくれるそうだ。
傾きを検知するセンサーと電気モーターを使って「バランスアシストシステム」は機能しているのか? と質問したところ、そのような複雑な電子制御は使っていない、もっとシンプルな仕組みであるとの答えが返ってきた。その内容を詳しく聞き出そうと質問を続けたが、両者の口は非常に堅く、終ぞその秘密を聞き出すことはかなわなかった。
後日、特許協力条約に基づいて公開された国際出願(出願番号PCT/P2021/037877)を調べてみたところ、文中に出てきたある単語に興味をそそられた。ストリーモは前フレームと後フレームを揺動部で連結する車体構造だが、その揺動部は「ナイトハルトゴムばね」を有しているのだ。
「ナイトハルト」と聞いて、旧い国産2&4輪好きの方はマツダR360クーペやヤマハモペットMF-1(ともに1960年)などのサスペンションを思い出したかもしれない。そして熱心なホンダファンを自認する人であれば、1981年11月発売の「ストリーム」を端とするジャイロシリーズなどのホンダ製3輪スクーターを思い浮かべるのではないだろうか?
ホンダでモーターサイクル造りに従事していた森、岸川両氏のキャリアを考えれば、40年以上の伝統と実績を持つホンダ製3輪スクーターに採用されるナイトハルト機構を、ストリーモに盛り込むことは自然なことのように思える。
しかし特許の文章を精読したところ、ストリーモはホンダ式のナイトハルト機構をそのまま採用しているとは、断言することができなくなる。カムブロックは四角形上ではなく、他の多角形状(たとえば三角)でも良い・・・。カムブロックすべての面が凹状でなく、たとえば2面が凹状で、これら凹状の面に対向してゴムローラーを配置しても良い・・・。そしてゴムばねではなく、オイルばねなどの弾性部材で復元力を作用させても良い・・・と、揺動部について記述されていた。
6月末に、東京都江東区の日本科学未来館で行われた新型ストリーモS01JTの発表会および試乗会の席で、約1年ぶりにお会いした岸川さんに「やはりココは、ナイトハルトですか?」と不躾にも単刀直入の質問をしてみた。否定も肯定もせず、ニコリと笑顔の岸川さんは「まだ明かせないですね」と答えた。ストリーモの揺動部・・・バランスアシストシステムの真相を明らかにするには、抽選販売に応募して実車を運良く入手し、当該箇所を分解してこの目で確かめるしかないのかもしれない(苦笑)。