自動運転の実現を念頭に、様々な先進運転支援システム(ADAS)が開発されている。その中で最もわかりやすく使いやすいシステムとして多くのクルマに採用されているのが、カメラを使った物体画像認識技術だ。今やADASは、自動運転に限らず様々な運転アシスト機能に採用が広がっている。ここでは、近年、その分野で急成長を見せているのが韓国のストラドビジョン社が展開する物体認識AIソフトウェア「SVNet」について解説したい。(タイトル写真は「SVNet」による物体認識状況)

悪天候下でも十分な情報を抽出できる

ストラドビジョン社は2014年に物体検知技術の専門家によって韓国で設立された。同社が開発した「SVNet」は、すでにドイツや中国などを中心に60万台近くの量産車にも採用されており、日本の自動車メーカーへの採用も働きかけている最中だ。同社によればそう遠くない段階でSVNetを搭載した日本車が登場するだろうとのことだ。

そのストラドビジョン社が得意としているのが、単眼カメラとDNN(Deep Neural Network)を組み合わせることによる映像の解析・認識技術だ。「SVNet」とはこの技術を活用したソフトウェアやソリューションのことを指す。

独自のアルゴリズムで開発された物体検知のソフトウェアで構成されており、ディープラーニングによるネットワークをコンパクトかつ軽量な環境下で動作できることを特徴としている。

一般的に、カメラは手軽でより多くのデータを収集できることを特徴とするが、反面、収集したデータ量が多いことが災いして、必要な情報を抽出するデータ処理には相応の負担がかかってしまう。

さらに天候や逆光といった撮影条件で収集データの影響が出ることもある。カメラによる物体認識ではそういった条件下でも適切に情報が得られなければ意味がないが、SVNetはそうした条件下であっても十分な精度を確保できることを特徴としているのだ。

画像: 「SVNet」は人はグリーン、クルマはレッドで認識。矢印でその進行方向まで認識されていることがわかる。

「SVNet」は人はグリーン、クルマはレッドで認識。矢印でその進行方向まで認識されていることがわかる。

SVNetは導入コストを低くできるのも大きな特徴だ。ストラドビジョン社のキム・ジュナンCEOによれば「同じ単眼カメラを組み合わせるライバルに対して、15〜20%ほど低コストで提供できる」とし、その上で「ソフトウェアだけの提供となることでハードが自由に選べるため、自由度の高い設計でも優位性がある」という。つまり、SVNetなら低コストで、なおかつ自動車メーカー等OEMの求めに応じて柔軟に対応できるのだ。

中でも見逃せないのが、組み合わせられるカメラが多岐にわたっていることだ。キムCEOは「世の中には単眼やステレオカメラだけでなく、サラウンドビューカメラやトリプルカメラ、そこから進化した7chといったマルチカメラを使った例もある。

当然、OEMからはそれらを使った際の要求もあるわけで、そういった条件下でもSVNetが処理することで低負荷で対応できる。これが他社に比べてスペックが低いSoC(System on a Chip)でも対応できることになり、結果として低コスト化にもつながっている」とのことだ。

画像認識によるパーキングアシストも開発

その一方でストラドビジョン社は、今年1月、米国ラスベガスで開催されたCES 2023において、TI(Texas Instruments)のSoC「TDA4」を使ったデモを行っている。これは1秒間にできる演算回数は15TOPS(15兆回)というハイスペックSoCであり、同社はそれをSVNetに展開する開発目標を掲げている。低スペックSoCでの優位性を謳っていた同社にとってこの動きにはどんな意味があるのだろうか。

キムCEOは「自動運転のレベルがレベル2〜レバル4に上がれば画像認識はそれぞれで対応する必要が出てくることが最大の理由だ。たとえばレベル2+では渋滞時にアシストするよう求められ、レベル3になれば自動レーンチェンジやハイウェイパイロットといった機能などの実現が対象に入ってくる。

そうなると当然カメラのスペックも上がってくるわけで、(軽い状態で動作できるとは言え)それに合わせてより高度なSoCを導入していく必要がある」と説明する。

また、最近はパーキングアシストへのニーズも高くなっており、「ADAS全体で言えばまだ10%程度でしかないが、これから伸びる領域であることは間違いない。今後はドライブ+パーキングをワンセットで対応できるシステムを開発を提案しているところだ」とキムCEOは画像認識によるパーキングアシストへの展開に言及した。

画像: ストラドビジョン「SVNet」のデモカー。日本国内でも道路状況を収集するために走行中だ。

ストラドビジョン「SVNet」のデモカー。日本国内でも道路状況を収集するために走行中だ。

つまり、これから先、画像処理がさらに複雑化していく中で、低負荷で処理できるSVNetとは言え、よりハイスペックなSoCでの対応は考慮していかなければならないということなのだ。

これまで自動運転のセンシングには今もなお導入コストが高いLiDARばかりが注目されてきた。しかし、キムCEOは「カメラは汎用性が高く、その能力は万能だ。スマホやパソコンのようにソフトウェアのアップデートで機能を更新できるSDV(Software Defined Vehicle)が進化していく中で、車載カメラのソフトウェアも進化していく」という。

それは自動運転とは言わないまでも、運転アシストとしてのADASのハードルを一気に下げることにつながるかもしれない。カメラ化による物体認識AIソフトの進化によって、その可能性がさらに高まっていくことを期待したい。

●著者プロフィール
会田 肇(あいだ はじめ)1956年、茨城県生まれ。大学卒業後、自動車雑誌編集者を経てフリーとなる。自動車系メディアからモノ系メディアを中心にカーナビやドライブレコーダーなどを取材・執筆する一方で、先進運転支援システム(ADAS)などITS関連にも積極的に取材活動を展開。モーターショーやITS世界会議などイベント取材では海外にまで足を伸ばす。日本自動車ジャーナリスト協会会員。デジタルカメラグランプリ審査員。

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