次世代モビリティというと、とかくEVや超小型モビリティなどハードウェアにばかり目が行きがちだ。しかし、CASEの進展とその先にあるMaaSの実現に向けて、最近は基本ソフトウェア(および車載OS)がより重要な意味と価値を持つようになっている。いわゆる「SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)」という考え方だ。ハードウェアからソフトウェアへ。世界中の自動車メーカーがその開発にしのぎを削り主導権を競っている中、トヨタの戦術はいかに。(タイトル写真は新体制となったトヨタ経営陣)

OTAで常にアップデートが可能になる

トヨタとウーブン・バイ・トヨタ(2023年4月1日付でウーブン・プラネット・ホールディングスから社名変更)は、自動運転を見据えた次世代車開発の基盤となるソフトウェアプラットフォームであり車載OSでもある「arene(アリーン)」を開発中であることを明らかにしている。

2025年に実用化、2026年に発売する次世代EVから実装することも発表した。アリーンの登場によって、今後のクルマや我々のカーライフはどのように変化するのだろうか。

その具体的な内容に関してはトヨタからまだ正式な発表はないが、過去の記者会見での発言などから概ね以下のような5つのメリットがもたらされると考えられる。

■(自動運転技術を始め)クルマを買い替えることなくいつでも最新のバージョンに乗ることができる。
■ソフトウェアに起因するなんらかの不具合が発生してもすぐに改善される。
■自分好みの仕様(乗り味も含め)にカスタマイズできる。
■クルマの開発・生産工数が短縮されて車両価格が下がる。
■オープンソースとしてトヨタ以外のメーカーでも利用可能になる予定なので、小規模メーカーやスタートアップ、さらに異業種によるアプリの開発など業界の垣根を超えたサービスが期待できる。

画像: アリーンを搭載することでクルマのソフトウェアはいつも最新に保たれる。

アリーンを搭載することでクルマのソフトウェアはいつも最新に保たれる。

今日のクルマには、さまざまな電子制御技術が採用されている。とは言え、従来のクルマ作りではハードウェアとソフトウェアは各々が一体開発で、ネットワークには統一性がなかった。

新たな機能や性能を盛り込むにはネットワーク間のすり合わせが必要となり、実装するには数年に一度のモデルチェンジを待つしかなかったのだ。

「アリーン」が搭載されると、モデルチェンジを待たずにOTA(オーバー・ジ・エア)によってあらゆる領域のアップデートが随時可能になる。クルマのスマホ化だ。

スマートフォンはAndroidまたはiOSという基本ソフトウェアをOTAによって随時更新することで、さまざまな最新のアプリやサービスを利用できる。

「アリーン」を実装したクルマは、より洗練されたコネクテッドカーとしての機能に加え、自動運転も含めた動的領域においてもOTAで常に最新版にバージョンアップされる。「乗り味」のカスタマイズも可能になるという。

画像: アリーンによってスマホ化するEV、これまでには考えられなかったようなサービスが登場するだろう。

アリーンによってスマホ化するEV、これまでには考えられなかったようなサービスが登場するだろう。

さらに、ユーザーから集まる膨大なデータを活用して、新たなニーズを素早く反映したり、実走後に発生した不具合にも速やかに対応することができるようになる。

もちろん、さまざまなアプリの利用も可能になり、サブスクリプション型のビジネスモデルによる異業種の参入も増えるだろう。従来の発想にとらわれない、ユニークなサービスも誕生する可能性がある。

ユーザー一人ひとりのニーズに合ったクルマを造ることもできるようになるだろう。

開発/生産コストが圧縮される

もうひとつ見逃せないのは、アリーンによってクルマの開発期間も大幅に短縮され、車内を縦横無尽に巡らしていたハーネス(配線)類の使用も大幅に減ることだ。つまり、開発コストや生産コストが圧縮されて、それが車両価格にも反映されるかもしれない。

事実、2023年4月に開催された新体制方針説明会では、(次世代EVの)開発・生産の工程を2分の1に削減することも発表された。現在、割高になりがちなEVは、バッテリー技術の進化も相まってリーズナブルなラインにまで下がりそうな気配である。

今のところ車載OSで先行しているのは、その先駆者でもあるテスラ。そこに新たにトヨタが加わり、前後してフォルクスワーゲン(VW.OS)、ダイムラー(MB.OS)、GM(Ultifi)、ホンダや日産・ルノー・三菱も独自の基本OSを投入してくる。

BYDを始め中国勢も黙ってはいない。開発競争は熾烈だ。トヨタはアリーンを自社で囲い込むのではなく、Androidのようなオープンソースとして他社への提供も視野に入れている。そこでは、自動車関連以外の事業者が参入してくることも可能になる。そして予想もしなかった新たなモビリティが誕生するかもしれない。

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