トヨタはクラウンセダンにもFCEVを設定
「Fuel Cell Electric Vehicle(FCEV)」は読んで字のごとく、水素と酸素を科学反応させて電気を取り出し(この変換装置を「FCスタック」と呼ぶ)、モーターを駆動して走るクルマだ。つまり、電気自動車(EV)の仲間である。
市販されている乗用FCEVはこれまでトヨタ「MIRAI」とヒョンデ「NEXO」のみだったが、2023年11月2日、トヨタは新型クラウンセダンのFCEVを発表、11月13日から発売を開始すると発表した。
また現在はFCEVの販売を休止しているホンダは、2024年にCR-Vをベースにした新型FCEVの発売を計画している。とは言え、バッテリー式のEVがこれだけ世間の注目を浴びている中、FCEVの現況はちょっと寂しい。
FCEVならではのメリットと言えば、なんといってもそのエネルギー効率の高さだ。ガソリン内燃機関のエネルギー効率はだいたい15〜20%ほどだが、燃料電池ではその2倍ほど(30%以上)もある。
ガソリン1L(約750g)と同じエネルギーを得るために必要な水素は1立方メートル(約90g)だ。水素は気体なので体積はガソリンよりも大きいが、圧縮することが可能なので体積を小さくして輸送・貯蔵することができる。航続距離も相対的に伸びるのだ。
一方で、水素充填インフラはまったく足りていない。現在、水素ステーションは全国で165カ所。首都圏で55カ所、中京圏51カ所、関西圏20カ所、九州圏15カ所、そのほか24カ所(2023年4月現在:一般社団法人 次世代自動車振興センター「水素ステーションの整備状況」より)だ。
日常的には自宅の近くに水素ステーションがあれば良いが、長距離を移動する際には道中の水素ステーションを必ず確認しておかなければならない。また現在はガソリンスタンドのようなセルフ充填は認められていないので、営業時間も併せて調べておく必要がある。
FCEVにはまだまだ使い勝手の面で不自由なところがあるのは否めない。しかし、乗用車ではなく運行ルートがほぼ決まっている大型モビリティ(トラックやバスなど)ならば、可能性は一気に広がる(大型トラックや大型バスなど)。事実、水素ステーションは主要国道周辺に重点的に配置されている。
化学反応させるか、燃焼させるかの違い
また、ときに混同されるFCEV(燃料電池車)と水素エンジン車は、まったくの別物だ。水素を充填するところまでは同じだが、前者は水素と酸素の化学反応によって生み出した電気でモーターを駆動する電気自動車(EV)の仲間。
後者は電気で駆動するのではなく、水素そのものを燃焼させて駆動力を得る。つまり、内燃機関の一種であり、エンジン車で培った技術を継承・進化させることでCO2の排出を抑えるのが狙いだ。水素は燃焼すると空気中の酸素と反応して水になる。
同時にEVの普及で見えてきた新たな課題の解決策のひとつとして位置づけることもできる。大規模停電が発生した時の混乱回避や、充電のわずらわしさからの解放、そしてバッテリー価格の変動に車両価格が影響されないなど、利便性を含めて可能性を秘めているのは確かだ。
かつてはマツダやBMWが水素エンジンの実用化に取り組んでいたが、技術的な課題を残したままいったん手を引く。現在はトヨタを中心に、川崎重工、スバル、マツダ、ヤマハ発動機などを加えた日本勢が市販に向けて開発を続けている状況だ。
エネルギー変換効率だけを見ればFCEVのほうが優れているが、従来のメカニズムを利用してコストを抑え、CO2排出を気にせずエンジン車の運転感覚を味わえるというのは楽しそうだ。最近では欧州メーカーも再び水素エンジンに注目しているという。
「水素」はその製造過程においてまだ課題が残るのは事実。またモビリティへの活用という点においても、インフラ整備が後手に回っている感は否めない。
一方では、ホンダが車載燃料電池技術を応用した定置電源システム(GMと共同開発)の販売を2020年代半ばから開始するという。「水素社会」というと遠い未来のことのように思うかもしれないが、それは予想外に早く訪れる可能性もあるのだ。