ナビアプリの中で不動の人気を誇っているのが「Yahoo!カーナビ」と「Googleマップ」だ。いずれのアプリも無料で使え、機能面での評価はおおよそ高い。その意味でこのふたつはナビアプリの双璧とも言える存在だ。ここではこの二強を例にスマホによるカーナビ用アプリの最新事情を見ていく。

無料ナビアプリの双璧はその生い立ちからして異なる

ナビアプリと一口に言っても、有料で使うものから無料で済むものまでそのスタイルは様々だ。有料アプリで最も人気が高いのが「NAVITIME」がリリースしている「カーナビタイム」。年額で5700円/月額で600円など、期間によって利用料が設定されているが、全地図データをダウンロードして使えたり、全国約2000カ所のライブカメラや降雨レーダーとのリンクを実現しているなど、無料アプリにはない魅力があるのも確かだ。

とはいえ、多くの利用者は、無料で使える「Yahoo!カーナビ」と「Googleマップ」に魅力を感じるだろう。しかも、両アプリともその評価は無料アプリとは思えないほどレベルが高く、それだけに車載カーナビを使っていてもこのアプリをスマホにインストールしている人は多い。とくに車載カーナビの地図データを更新しないまま使っていると、常に最新データに更新される両アプリの存在は重宝するというわけだ。

画像: Googleマップをダイハツ「ムーブ・キャンバス」のディスプレイオーディオで、CarPlayを使って表示した例。

Googleマップをダイハツ「ムーブ・キャンバス」のディスプレイオーディオで、CarPlayを使って表示した例。

「Yahoo!カーナビ」と「Googleマップ」を比較してその大きな違いとなるのが、その生い立ちだ。Yahoo!カーナビは日本で誕生した純国産のカーナビ用アプリ。地図データはゼンリン製を使い、カーナビのアルゴリズムを業界の老舗「住友電工」が担当している。

交通情報にはVICSデータを使い、そこに会員の利用によって収集したプローブデータを加えて精度向上を図っている。つまり、日本ならではのカーナビ事情を踏まえて作られたのがYahoo!カーナビと言っていいだろう。

一方でGoogleマップは海外で開発されたものをベースに、自社で制作した地図データを組み合わせて使っている。以前はGoogleマップもゼンリン製を使っていたが、2019年3月に自社製データに切り替えた。

交通情報もGoogleマップを使う利用者の動きから収集したものを反映したプローブデータのみを使っている。その上で、日本で展開するために日本の道路事情に最適化した造りになっているようだ。

両アプリともに音声で手軽に目的地検索ができる

このふたつのアプリを使って実感するのが、その都度データをダウンロードして使うことを鑑み、データサイズを可能な限り小さくしていることだ。これは通信によるデータ送出時のサーバー負荷を可能な限り小さくしたいことが背景にある。

それがよくわかるのが交差点ガイドだ。車載カーナビでは基本的に交差点に近づくと拡大図が表示されるが、両アプリとも基本的には進行方向を矢印によって案内するのみとなっている。

車載カーナビなら交差点拡大図を表示して周辺の様子を案内しているが、両アプリともその表示は基本的に行っていない。Googleマップではその対応が徹底していて、一般道から高速道路に至るすべてを矢印と、その進むべき先の道路名を表示するのみだ。

一方でYahoo!カーナビは一般路の大半を矢印で案内するものの、大都市の一部の交差点ではCG化したイラストを表示し、高速道路のすべてのJCTと出口案内でイラストによる案内を実現している。

さらに制限速度の表示も行っている。当然、その分だけデータサイズは大きくなっているはずだが、Yahoo!カーナビでは日本の複雑な道路事情を鑑み、わかりやすさを可能な限り追求したと言える。

画像: 【Yahoo!カーナビ】高速道路のJCTや出口、大都市の一部交差点ではリアルなCGによるガイドが表示される(横表示した例)。

【Yahoo!カーナビ】高速道路のJCTや出口、大都市の一部交差点ではリアルなCGによるガイドが表示される(横表示した例)。

また、ルート案内中の音声ガイドは両アプリとも電子合成音を使用している。かつて電子合成音は発声の不自然さが際立ち、車載カーナビではこれをすべて録音することで対応してきた。

当然、その分だけデータサイズが大きくなるため、当初は両アプリとも交差点名の読み上げは行っていなかった。それが電子合成音の進化に伴い不自然さがなくなり、今ではテキストデータから音声に変換して交差点名の読み上げを実現している。

両アプリとも常に通信でつながっているが、それは目的地検索にも活用されている。車載カーナビなら多くの場合、目的地検索はメニューから階層を開いて絞り込む。しかし、両アプリでは音声で目的地となる施設名や住所を読み上げるだけで、即座に対象が絞り込める。

とくにGoogleマップはこの能力に長け、仮に対象が探せなくても関連する施設が提案される。この点、Yahoo!カーナビは対象地が絞り込めないと「検索結果なし」となるだけとなってしまう(後に紹介する「Yahoo!マップ」ではここが改善されている)。

欧米か、日本か、生まれと育ちによって異なる分岐点の案内

ここでルート案内に対する両アプリの考え方の違いを説明しておきたい。実は日本の道路には欧米と違って名称が付いていることがほとんどない。「国道○号線」とか付いている以外、せいぜい一部の道路に「○○バイパス」「○○通り」として表記されているのみだ。たとえば住宅地や農道に至っては名称が付いていることはほとんどない。

それが欧米ではすべての道路に名称が付いている。そのため、現在地を伝えるにも道路名と番地を伝えるだけで即座に場所が特定できるようになっている。これがカーナビの案内方法にも大きく影響を与えているのだ。

それを端的に示しているのが、分岐点での案内方法だ。意外に思うかもしれないが、実は欧米のカーナビでは交差点そのものの案内はさほど重要ではない。

何よりルート案内には曲がった先の道路名を示すことが最も重要で、この情報を元にドライバーは交差点に掲げてある道路名の標識を探して曲がる。

対して日本ではこの道路名が未整備なため、自ずと交差点にある目印を示すか、具体的に交差点の様子を拡大表示して対応せざる得ない。

画像: 【Googleマップ】すべての一般道での交差点では、分岐点までの距離と進行方向が矢印で案内され、Googleマップならではの特徴として進むべき道路名が表示される。

【Googleマップ】すべての一般道での交差点では、分岐点までの距離と進行方向が矢印で案内され、Googleマップならではの特徴として進むべき道路名が表示される。

これがYahoo!カーナビとGoogleマップの案内方法に違いとなって現れているのだ。たとえばGoogleマップの案内は交差点に近づくと、分岐点でのルート上に矢印を示し、曲がった先の道路名が表示されているのがわかる。これがGoogleマップ本来の案内方法の名残だ。ただ、日本では交差点の情報がより重要であるため、分岐点情報を充実させている。

一方でYahoo!カーナビは前述したように、基本的に交差点での方向を矢印で示すだけでなく、大都市の一部交差点や高速道の分岐点ではリアルなCGで表現している。

Yahoo!カーナビとしてはすべての交差点を拡大図で示したいところだが、サーバーの負荷を鑑み、ここまでにとどめざるを得ないというわけだ。

Yahoo!カーナビもこの夏からAndroid Autoに対応

また、ディスプレイオーディオへの対応も両アプリの違いとして現れている。欧米ではカーナビ機能をディスプレイオーディオで使う人がほとんどで、それを反映してGoogleマップはいち早くCarPlayとAndroid Autoへの対応を果たしてきた。ところが日本では車載カーナビの普及率が高く、スマホによるカーナビ機能を使う人はそれほど多くはなかった。

しかし、ここ数年で状況は大きく変わり始めている。トヨタがディスプレイオーディオの標準化を進めたのを契機に、他の自動車メーカーもそれに追従。とくにコンパクトカーや軽自動車ではその傾向が極めて高くなっているという。

軽自動車をメインで販売する千葉県内のダイハツディーラーによれば、約半数の人がディスプレイオーディオを選んでいるそうで、数年前では考えられなかったと話す。

こうしたことからYahoo!JAPANは、それまでCarPlayのみの対応としていた「Yahoo!マップ」を2023年4月12日よりAndroid Autoに対応させ、Yahoo!カーナビについてもこの夏までに同じく対応することを発表した。

これにより、Yahoo!JAPANでは自動車だけでなく電車や徒歩までをサポートする「Yahoo!マップ」と、カーナビ専用とする「Yahoo!カーナビ」の2本立てでライバルのGoogleマップに対抗していくことになる。

こうして激化するカーナビ用アプリだが、利用するにあたっては課題も少なくない。まず自車位置の測位能力だ。ここで紹介したアプリはすべて測位をGPSのみで行っている。そのため、衛星の状態によって正しい位置を表示できなくなってしまうのだ。

とくにビル街や山間部を走行するとその現象は起きやすくなり、都市部ではGPS信号をロストした地下駐車場などから出た時はどちらへ進んだらいいのか見当すら付けられないということがある。

画像: 【Googleマップ】航空写真を使った状態での表示を、ディスプレイオーディオでも展開することができる。

【Googleマップ】航空写真を使った状態での表示を、ディスプレイオーディオでも展開することができる。

さらにその都度、地図データを電波で取り込んでいることもあり、電波状態が悪い県境付近を走っていると突然地図表示ができなくなることもある。こうした状況を防ぐには、全地図データをダウンロードして使う有料カーナビ用アプリ「NAVITIME」を利用するしかない。カーナビ用アプリを使うにあたっては、こうした点も知った上での利用をお勧めしたい。

とはいえ、全体の流れから言えばディスプレイオーディオによるカーナビ利用が進んでいくことは止められない。現時点では日本市場向けに専用カーナビを準備している自動車メーカーも、インフォテイメントシステム全体のコストを下げるためにグローバルで統一していく可能性は高い。

すでにホンダやボルボなどはインフォテイメントシステムそのものをGoogleで対応しており、今後はこれが他の車両にも及んでいくことは確実だ。その意味でもカーナビ用アプリのますますの進化が求められていると言っていいだろう。

●著者プロフィール
会田 肇(あいだ はじめ)1956年、茨城県生まれ。大学卒業後、自動車雑誌編集者を経てフリーとなる。自動車系メディアからモノ系メディアを中心にカーナビやドライブレコーダーなどを取材・執筆する一方で、先進運転支援システム(ADAS)などITS関連にも積極的に取材活動を展開。モーターショーやITS世界会議などイベント取材では海外にまで足を伸ばす。日本自動車ジャーナリスト協会会員。デジタルカメラグランプリ審査員。

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