2024年に第一区が完成し運営がスタート
「ウーブン・シティ(Woven City)」は、“スマートシティ”という概念を源流とする壮大な実証実験プロジェクトだ。
スマートシティという考え方は、すでに2000年代後半から提唱されていたが、近年では「ICT(情報通信技術)を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域」(内閣府HPより)と定義されている。
つまり、デジタル技術を積極的に導入することで、より快適な暮らしや経済活動の創出を図る持続可能な都市や街づくり(コネクティッド・シティ)を実現しよう、という考え方だ。
国や自治体なども取り組み始めているが、民間で手を挙げたのがトヨタ自動車であり、その実証実験都市が「ウーブン・シティ(Woven City)」と考えれば、その目的や意義も明確になる。
現在、静岡県・裾野市にあるトヨタ自動車東日本・東富士工場跡地で着々と建設が進んでおり、完成すれば、あらゆるモノやサービスがつながった70.8万平方mという広大な街が誕生する。
2024年にはそのうちの第一区が完成、運営が始まる。まずは、トヨタグループの社員と家族や、このプロジェクトに関係する企業や研究者など360人前後の住民が居住するという。最終的には2000人以上が暮らす街になり、さまざまな情報や技術が日本のスマートシティ実現に向けて発信されるはずだ。
名だたる日本企業がモビリティの可能性を探る
そもそもウーブン・シティの計画は、2020年1月、米ラスベガスで毎年開催されるIT見本市「CES」で初めて披露された。
「人々が生活を送るリアルな環境のもと、自動運転、MaaS、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などを導入・検証できる実証都市を新たに作るものです。プロジェクトの狙いは、人々の暮らしを支えるあらゆるモノ、サービスが情報でつながっていく時代を見据え、この街で技術やサービスの開発と実証のサイクルを素早く回すことで、新たな価値やビジネスモデルを生み出し続けることです」というものだ(2020年1月:プレスリリースより抜粋)。
トヨタは自動車を製造するメーカーからモビリティカンパニーへの変革を進め、新たな仕組みづくりに取り組んでいる。「モビリティ」とは乗り物だけでなく、「ヒト」、「モノ」、「情報」の移動によってそれがもたらす「感動」を意味している。 “Mobility for All”という標語のもとに、すべての人に移動の自由と楽しさを提供する企業に変わろうとしているのだ。
そのために何ができるのか。異業種のパートナー(NTT、ENEOS、日清食品ほか名だたる企業が名を連ねている)とも手を携え、「モビリティ」の可能性を探っていくのがウーブン・シティだ。
実際に人々が生活することから生まれるさまざまなニーズやアイデア、それらを実現するための技術やサービスを実際に人が居住しながら試すさながら「テストコース」のような存在である。
国や自治体主導の実証実験では、実施に至るさまざまな調整(法規制や関係省庁など)がつきものだ。閉ざされた私有地内ならば、その必要はなくスピーディな実証実験が可能である。技術やサービスの開発・実証・改善を素早く繰り返すことで、新たなモノやサービスが創出されるのだ。
「性能や味付けを評価する自動車メーカーのテストコースから、モビリティカンパニーとしてのテストコースへ。すべての人のための移動の自由を実現するためのテストコース」と表現したトヨタの豊田章男社長(当時)。まさに自動車メーカーならではの発想である。
この新時代のテストコースから果たしてどんな技術やサービスが生まれるのだろう、そして未来のライフスタイルはどうなっているのだろうか。それはプロジェクトの主体であるトヨタにも予想できないかも知れない。いやむしろ、我々の予想を超える画期的な「モビリティ」が誕生する可能性すらもある。期待しながら今後の進捗を見守っていきたい。