このところ耳にすることが多くなった“MaaS”、これにはいったいどういうメリットがあるのか。そして、どういう段階を踏んで進んでいくものなのか。自動車メーカーにとって“脅威”とならないのか、などを考察してみた。

マイカーに頼らない自由な移動

「MaaS」とは“Mobility as a Service”の頭文字をとったもので、直訳すれば“サービスとしての移動”だが、要は鉄道やバスなどの公共交通機関、タクシー、レンタカー、シェアサイクルなどの移動サービスをスマホアプリなどによる情報通信技術を介して最適に組み合わせることで、マイカーに頼らない自由な移動をひとつのサービスとして提供すると考えればいいだろう。

その結果として、マイカーが減り、渋滞や交通事故、大気汚染や温室効果ガスが減るという社会課題の解決が期待されているのだ。

そして、MaaS社会実現までには5つの段階があると考えられている。
レベル0:統合されていない単体のサービス
レベル1:複数交通モードの情報検索が可能
レベル2:ひとつのサービス上で複数交通モードの検索・予約・決済に対応
レベル3:複数交通モードのサブスクリプションサービス
レベル4:レベル3の内容に対して国や都市計画の政策として行う

日本では国土交通省と総務省が中心となって、以下のようなコンセンサスのもとに、官民を挙げてその早期実現に取り組んでいる。

「MaaSはスマホアプリにより、地域住民や旅行者一人ひとりのトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスです。新たな移動手段(シェアサイクル等)や関連サービス(観光チケットの購入等)も組合わせられます」(出典:国土交通省「MaaS推進に関する取組について」:2019年12月6日)

現在、日本は前述したレベル1の段階にある。スマホアプリによる行先検索や乗換情報、タクシーの配車サービス、そして鉄道系カードの相互決済システムなどMaaS社会実現につながるサービスの基盤はすでに身近にはなっている。とは言え、それらはまだ統合されたサービスプラットフォームとはなっていない。

個人情報の取り扱いなどに課題

また、脱マイカー時代の到来によって日本の基幹産業である「自動車業界」への影響を懸念する声が上がっているのも事実だ。マイカー所有の動機づけがますます難しくなり、自動車販売台数の減少に拍車がかかるのではないかという主張だ。

しかし、自動車メーカーは意外や冷静で、MaaSの本格到来に向けてすでにさまざまな試みを行っている。たとえばトヨタ自動車は、完全自動運転の乗り合い型EV「e-Palette」を発表済で、海外ではライドシェア事業にも乗り出している。

トヨタが「モビリティカンパニーになる」と言っているのは、こうしたサービスをさらに充実化させるという宣言なわけで、MaaSの進化は歓迎すべきことと捉えているのだ。

その他、細かい例を挙げれば、日産自動車もGoogleやDeNAと連携した自動運転車の実証実験を開始し、ホンダもソフトバンクと手を組み5Gコネクテッドカーの実証実験に世界で初めて成功するなど、単なる自動車生産会社からの脱皮を着々と進めている。

では、レベル2への移行に向けて解決すべき課題は何だろう。もっともハードルが高いと言われているのが、いわゆる個人情報の取り扱いだ。スマホアプリを介して集まるビッグデータには膨大な個人情報も含まれている。

だれが、いつどんな交通手段を利用してどこへ行ったのか、行く先でどのような消費をしたのか、さらに決済口座の情報まで……複数の事業者が共有することによるデータの取り扱いやセキュリティに関する法整備や技術開発はまだ十分とは言えない。

ともあれ、MaaSの本格導入(レベル2以降)が始まると我々のライフスタイルも大きく変化することは間違いない。課題はあるが、国交省や総務省ではMaaS関連事業に参入する事業者向けにガイドラインを策定し、現在は各事業者が日々、課題の解決に取り組んでいる。まずはレベル2の導入がいつになるか。引き続き見守っていくしかない。

昨今、地方の公共交通機関の多くは採算が合わず存続の危機に見舞われている。すでに従来からマイカー依存度の高かった地方では急速に進む高齢化と相まって、バスや鉄道の運行本数の削減や路線の廃止など、移動の自由の制限が顕著になりつつある。都市部との交通格差がこれ以上開かないようにするのもMaaSの大切な役割なのだ。

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