建設会社が月面建設に乗り出したわけ
日本の準大手ゼネコンの安藤・間(安藤ハザマ)は2024年10月、近年NASAのアルテミス計画を筆頭に月面探査への関心の高まりを背景として宇宙事業へ進出した。これまでの建設事業で培ってきた地下空間構築や、トンネル建設技術を応用して「宇宙シェルター」や「ルナ・ジオフロント」の実現を目指す計画である。
月表面の砂礫「レゴリス」を詰めた“土嚢”を活用した放射線シェルター
地球には大気や磁場などといった、宇宙からの放射線を防護してくれる天然のバリアがある。一方で月面に大気や磁場はほぼ存在せず、地球の100倍以上の放射線がつねに降り注いでいる。そのため月面での作業以外の時間は、シェルターで放射線から防護する必要がある。
また太陽表面での爆発現象「太陽フレア」が発生すると、被ばく量が突発的に数百倍〜1万倍程度にまで急増してしまうので、緊急避難用の放射線シェルターの設置も不可欠となる。
そこで安藤ハザマは、月の表面にある堆積物「レゴリス」を材料として活用して、恒常的な銀河宇宙線と突発的な太陽フレアの双方を遮蔽する「月面放射線防護装置(宇宙シェルター)」の検討を進めている。
パターン①恒常的に降り注ぐ放射線対策
2カ月間の月面滞在時に想定被ばく線量の限度を目標に、仮設作業所としての機能や他居住施設に遮蔽能力を提供する土嚢(どのう)を開発。
これは、専用のパックにレゴリスなどを詰めてブロックのようにして、構造フレームと組み合わせて設置することで、かまくらのような形状のシェルターを建設するもの。必要遮蔽厚が分厚くなるため、パックの積み上げ手法や構造を支持する方法の開発が重要になるようだ。

ドーム構造のシェルターとして建設される。
パターン②突発的な放射線急増への対策
10年に一度程度発生する規模の太陽フレアを対象に、太陽フレア発生予測(宇宙天気)情報との連携を前提とした緊急避難所用の土嚢を開発。事前に設置する場合は耐久性が、フレア発生予測後に設置する場合は即時性が求められ、現段階ではメッシュ一体型パックにすることで、恒常的なシェルターよりも素早く組み立てられるような設計が想定されている。

サクッと建設できることが求められる緊急用のシェルターである。
パターン1と2の宇宙シェルター2タイプについては、2025年度からレゴリスパックの応用、レゴリス固化技術を筑波大学と、月・火星探査活動における宇宙放射線被ばくの影響調査に関する研究を広島大学と行い、2032年の宇宙シェルター販売開始を目指して研究開発を進めていくそうだ。



