オーバー1000馬力のセダンとSUV。高性能が売りの米欧ブランドも安泰ではなくなる
超高性能なEVセダンと言えば、テスラのモデルSプラッド(トライモーター/システム総出力1020hp、0→100km/h加速2.1秒)、ポルシェのタイカンターボGT(デュアルモーター/システム総出力1034ps、0→100km/h加速2.1秒)が双璧と言われてきた。
そこに一石を投じたのが、自動車メーカーとしては新興のシャオミ(Xiaomi)。同社が2024年10月に独ニュルブルクリンクサーキットで、タイムアタック専用車「SU7 Ultra プロトタイプ」で 4ドアEV最速の6分46秒874という、それまでのレコードホルダーだったタイカンターボGTの7分07秒55より20秒以上も速いタイムをたたきだして大変な話題となった。
あくまでタイムアタックに的を絞ったトライモーター仕様のプロトタイプだが、ほぼ同じパワーユニットを搭載した市販モデル「SU7 Ultra」(システム総出力1548ps、0→100km/h加速1.98秒)は今春からデリバリーが始まる。
中国市場では、富裕層に向けたハイパフォーマンスモデルが今後のトレンドとなりそうな気配だが、ここに最大手BYDが強力なラインナップを一度に2台も追加投入する。ミッドサイズセダンの「Han L」、同じくミッドサイズSUVの「Tang L」だ。
「Han」「Tang」ともに既発売シリーズであり、BYDブランドの“王朝シリーズ”のフラッグシップモデルという位置づけだ。そこにより強力な性能を与えたグレードを追加することで、よりハイエンド市場での地歩を固めようとするのだからライバルの心中は穏やかではないだろう。
もっともスペックをみると、「Han L」「Tang L」ともにテスラ、ポルシェ、そしてシャオミとはターゲットが異なることも明白だ。絶対的なパフォーマンスの優位性を誇るのではなく、あくまでライバルがひしめく中国の上級セダン/SUV市場でのポジションを固める意図が見える。
御覧のとおり、そのエクステリアは至って普通だ。空力パーツをてんこ盛りにしたSU7 Ultraのようにあからさまな高性能は主張していない。パワートレーンも前後2モーターで、モデルSやSU7のようなトルクベクタリング機構を備えたトライモーターではない。
とはいえ、BYDは後輪側に最高出力580kW(777hp)/最高回転数3万回転という途方もない新開発モーターを搭載してきた。前輪側には230kW(380hp)のモーターを組み合わせて、システム総出力810kW(1085hp)を達成している。
0→100km/h加速は2.7秒と発表されており、ライバルの数字には及ばないものの、絶対的なパフォーマンスは圧倒していると言えそうだ。ちなみに発表されたRWDバージョンは、後輪側に同じく最高回転数3万回転ながら最高出力を500kW(670hp)に抑えたモーターが搭載されている。
「Han L」「Tang L」ともに、現地で人気が高まっている最新世代のシステム「DM-i」「DM-p」を搭載したプラグインハイブリッド(PHEV)もラインナップされる。前者は115kW(154hp)を発生する1.5Lガソリンエンジンと200kW(268hp)のモーターで構成されるRWD駆動車。後者は前輪にも同じ200kWのモーターを追加している。価格はまだ明らかにされていないが、EVモデルよりも手ごろに設定される可能性は高い。
優れたコストパフォーマンスによって中国国内で圧倒的なシェアを獲得したBYDが、次なるステージとして選んだのは、よりハイパフォーマンスでラグジュアリーな世界だ。BYDは「Denza」というプレミアムブランドも展開しており、今回発表された2台のテクノロジーはDenzaにも展開されることはほぼ確実と見ていいだろう。
気になる価格や技術詳細については、3月中に改めて発表されるとのこと。ともあれ、BYDブランドがハイエンド市場の強化を表明したことで、中国のNEV(EV/PHEV)業界を大きく揺るがすことは間違いなさそうだ。