タッチ決済だけではない~MaaSを超えて生活必需品になる?
「Suica Renaissance~Suicaの当たり前を超えます」。同社の中長期ビジネス戦略「Beyond the Border」に基づいて策定された新たなデジタル化戦略は、MaaS(Mobility as a Service)の枠を超え、我々の生活を大きく変えるかもしれない大胆な構想だ。移動、決済はもちろん、行政手続きに至るまで、日常生活に必要なさまざまな機能がSuicaに紐づけられ、サポートされるようになる。
次世代Suicaが目指すのは、後払いの決済機能はもちろん、行政との連携を始めさまざまな生活シーンでの利便性を変革すること。その前提となるのが新しい「Suicaアプリ(仮称)」の導入だ。センターサーバーで管理する巨大なプラットフォーム型システムへ移行することで、Suicaの機能を革新していく。
現時点ではあくまで計画であることを前提に、JR東日本が描いた近未来をいくつか挙げてみた。たとえば・・・。
1、「ウォークスルー改札」「位置情報等を活用した改札」の設置:タッチせずに改札を通過できる「ウォークスルー改札」、改札機がない駅での「位置情報等を活用した改札」の設置。位置情報等を活用した改札が実現すれば、Suica未導入エリアや読み取り装置のない駅も含め、JR東日本全線でSuicaが利用できるようになる。
2、サブスク型の料金設定や特典の発行:Suicaと言えばSF(前払い:いわゆる“チャージ”)または定期券での利用が主だった。「Suicaアプリ(仮称)」では、新たにサブスク型の支払いメニューも検討されている。たとえば、毎月3000円を支払うことにより、自宅最寄り駅である大宮駅を起点として、どの駅でも運賃が50%割引となるサブスク商品(割引上限あり)、鉄道の日などの記念日、駅ビルやイベントでの買い物により配信される鉄道クーポンなど、これまでにない便利なサービスの提供が検討されている。
3、地域自治体・地域社会のコンテンツやサービスを付加:現在、自治体とJR東日本のMaaSの連携で実現している移動と地域のDXモデルを地域連携ICカードとの統合により拡張し、各地域に根差した「ご当地 Suica(仮称)」を創出する。マイナンバーカードとの連携により、地域内の生活コンテンツ、サービス(地域割引商品、デマンドバスなど)、商品券や給付金の受け取りや行政サービスの利用を実現するという。
決済機能を超えて新たな社会インフラになるポテンシャル
ここに紹介した次世代Suicaの機能はごく一部。移動や生活シーンにおいても、収集したデータを活用することによって、たとえば旅行時に新幹線が到着したらタクシーが待っていたり、帰宅時に風呂が沸いていたりする「おもてなし」サービスや、利用者の健康状態に合わせた食事のレコメンドをする「お気遣い」サービスなども検討されている。実現すれば、Suica利用者の生活全般をサポートできるようになり、さまざまなサービスの拡張も見込める。つまり、決済機能を超えて新たな社会インフラとなりうるポテンシャルを秘めている。
鉄道・バスなどの公共交通機関では、事前のチャージが不要なタッチ決済が急速に浸透している。キャッシュカードによる決済ソリューションを提供している三井住友カード株式会社は、2025年末までに全国で7割のシェアを獲得すると意気込む。鉄道・バス利用だけでなく、買い物・飲食や宿泊料金などがまとめて後払い決済できる日本型MaaSは、いつの間にか身近になりつつあるのだ。
JR東日本による計画は、決済機能にとどまらず利用者の生活全般のサポートにつながる画期的なもの。あくまで段階的に導入され、従来型モバイルSuicaのバージョンアップも継続して行っていくという。