車載用バッテリーの巨人が打ち出した次の一手は究極のモジュールプラットフォーム
スケートボード型シャシとは、標準化された板状の車台の上に、バッテリー、モーターそのほか走行に必要な装置一式を効率良く載せたEV専用プラットフォームのこと。その設計思想はすでに2002年に米GMが提唱している。モーターをはじめとするパワーシステムの搭載位置を選ばず、最新の技術トレンドをいち早く採用することができるほか、スペース効率や生産性に優れ、さまざまなタイプのボディを架装することで作り分けも容易となる。つまり、クルマを短時間かつ低コストで開発することが可能になるのだ。
その概念を一歩進めたのが、いわゆる「CTC(Cell to Chassis)」あるいは「CTP(Cell To Pack)」と呼ばれる技術。バッテリーパックそのものを車台の構造部材の一部とすることで、さらなる生産性の向上とコスト削減を実現する。デリケートなバッテリーを保護する強固な構造となっているため、結果的に車体剛性のアップにも貢献する。米テスラやリヴィアン、そしてBYDを始めとする中国メーカー勢がすでにCTC/CTP技術を応用した市販車を発売している。いわば究極のモジュール化されたプラットフォームだ。
今回、CATLが発売した「Bedrock」も、CTC/CTPを採用した汎用性の高いスケートボード型シャシ。バッテリーメーカーがなぜ、と思われるかもしれないが、スケートボード型シャシはバッテリーの開発と表裏一体の関係にある。CTC/CTP技術の実用化により、より薄くさらに大容量のバッテリーパックを組み込むことが可能になるからだ。言い換えれば、CATLはバッテリーとシャシをセットで販売する新たなビジネスモデルの構築に乗り出したとも言える。
120km/hで正面衝突しても火災や爆発がない安全性能を実証
今回、Bedrock最大のセールスポイントとして打ち出されたのが、高い安全性だ。C-NCAP(中国新車評価プログラム)である56km/hの2倍以上となる120km/hの正面衝突実験でも火災や爆発を起こさないことが証明されたという。ちなみに56km/h時の衝突エネルギーは高さ12mのビルから落下するのと同等。120km/hでの正面衝突は、高さ56mのビルからの落下に相当し、56km/h時の4.6倍にもなる。
より厳しい条件(衝突面積は正面衝突時の6分の1)となる正面ポール衝突実験も実施された。小さな面積で衝突エネルギーを分散・吸収しなければならず、120km/h時の衝突エネルギーは56km/hテスト時の21倍にも及ぶが、Bedrockはこちらもクリア。この過酷な衝撃試験に挑戦する新エネルギー車は過去に例がなく、新たなベンチマークとなった。
3つの技術的ブレークスルーによって超安全なEV時代を切り開く
Bedrockの高い衝突安全性能は、一般的なモノコックシャシに対して、ボディとシャシ部を分離したスケートボード構造とCTC/CTP技術の合わせ技によるところが大きい。さらに、構造と材料のイノベーション=3つの技術的ブレークスルーを活用しての領域を深く掘り下げて、車両全体の堅固な安全性を実現している。
まずは、亀の甲羅模様にインスパイアされた3次元生体模倣構造の導入を挙げることができる。ボディとエネルギーユニットのフレームワークを統合するとともに、深いレベルで結合することでエネルギーユニットに破壊不可能な構造を採用した。また、空母にも採用されるアレスティング構造により、衝突時に衝撃力を複数の経路に分散させるとともに、車両の加速度を徐々に減速させ、障害物がキャビンに侵入する深さと速度を大幅に減少させる。
採用される素材は、潜水艦に匹敵する強度2000MPaの熱間成形鋼、航空宇宙グレードの強度600MPaアルミニウム合金だ。これらを複数のバリア構造で組み合わせることで、シャシの剛性がさらに向上し、類を見ない安全性を実現しているという。
CATLならではのバッテリーセル設計、NPテクノロジー、高延性エネルギー吸収断熱フィルムを組み込んでおり、バッテリー本体の安全性能も画期に向上した。60km/hの高速そり衝撃試験、90度の曲げ試験、鋸引き試験など非常に厳しい試験を受けており、3つの試験すべてでバッテリーが発火したり爆発したりする兆候はなかったという。
これらのテストはすべてCATLによる業界初のもので、バッテリーセルの安全基準を新たな高みに引き上げたと言えるだろう。さらに衝撃から0.01秒以内に高電圧回路の瞬間切断を達成し、車両内の残留高電圧エネルギーの放電を0.2秒以内に完了し、業界新記録を樹立している。
スケートボード型シャシはあと数年で30兆円を超える巨大市場に
上述したように、スケートボード型シャシの利点は、その冗長性にある。
パワーシステムは前後どちらにでも置くことが可能。ホイールベースの短縮や延長にも柔軟に対応し、上屋となるボディのタイプも自由に選択できる。さらにBedrockは、SDV化の要であるE/Eアーキテクチャーにも対応しており、車載OSとともに購入したメーカーが自在にアレンジすることが可能だ。
これにより、「ワンシャシアーキテクチャ、マルチビークルモデル」のコンセプトを実現し、開発効率が大幅に向上して研究開発サイクルを短縮するという。車両の量産に必要な開発期間は、従来の36カ月以上から、わずか12〜18カ月に短縮される。
2024年12月24日に開催された発売式典では、長安汽車系のプレミアムブランド「AVATR(アバター)」が自動車メーカーとして初めてBedrockを採用することも発表された。スケートボード型シャシの需要は急速に伸びており、ごく近い将来に30兆円を超える巨大市場に成長すると予想されている。AVATRに続いて今後、中国ブランドだけでなく現地化を進める外資メーカーも続々採用することになるだろう。激しさを増しているSDV開発競争とともに、汎用スケートボード型シャシの動向にも注目しておきたい。