11月単月で2万3000台超えの納車を達成。1台のEVセダンが中国EV業界を揺るがす
スマートフォンやスマート家電のメーカーとして日本でもお馴染みのシャオミ。同社は2021年3月に自動車事業への参入計画を発表したが、正直それがこんなに早く実現するとはだれも予想しなかっただろう。2024年3月28日に正式発表され、同日に受注を開始したEVセダンの「SU7」は大きな評判を呼び一躍ヒットモデルになった。
とは言えシャオミの生産工場は1カ所のみ。4月の納車は7058台だったが、徐々に増産体制を整えて直近11月にはついに2万3000台を超えた。結果的に当初の年間目標だった10万台を上回ったことで、目標を13万台まで引き上げられたが、それでもオーダーは引きも切らない。さらなる供給増を目指し、現在、2025年央の操業開始を目標にした第2工場の建設が急ピッチで進められている。
現在、シャオミ「SU7」の販売は中国国内のみ。にもかかわらず、わずか8カ月で11万台以上の納車を達成したという事実。これには中国EV市場で圧倒的なシェアを誇るBYD、それに続くテスラの心中は穏やかではないだろう。
テスラ モデルYを狙い撃ちする「YU7」。正式発表の半年前に公開した理由
去る2024年12月9日の夜、シャオミが中国のSNS「ウェイボー(Weibo/微博)」で公開したのがSU7に次ぐ第2のEV「YU7」である。投稿したのはシャオミのレイ・ジュン(雷軍)CEO本人だ。2025年の6月または7月に正式発表・発売されると記されて外観の写真数点が公開されたが、スペックや車両価格などディテールには一切触れられていない。
なぜ事前に告知したのかとコメント欄で問われたレイCEOは「(発売までに)堂々と公道テストできるから」と返している。これに加えて、上述した第2工場の稼働開始時期が関係しているのも間違いない。つまり、新工場の建設はSU7の増産のみならず、新たに「YU7」の生産を織り込んでいる。
そしてもうひとつ、ターゲットに想定するテスラ モデルYが、2025年第一四半期に大幅改良されることも見逃せないポイントだ。SU7は、プレミアムセダンのカテゴリーでテスラ モデル3と抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げている。いまのところ生産規模に勝るモデル3が優位だが、「YU7」では新型モデルYの出鼻をくじく意図がありそうだ。第2工場の操業開始まで「YU7」への期待を煽る一方で、新型モデルYの買い控えを発生させる。挑戦的なマーケティング戦略で知られPR能力に長けたシャオミだけに、その可能性は高い。
現在、テスラ モデルYは中国においてもプレミアムミッドサイズSUVクラスで圧倒的な強さを誇る。その牙城に「YU7」は真っ向勝負を挑む。今後はテスラの動向を見すえながら、情報を小出しにしてくるだろう。モデルYの行く手を封じていくのがシャオミの青写真だ。
上述のとおり価格については一切触れられていないが、現地メディアはモデルYとほぼ同じ25万元(約523万円)をスターティングプライスと予想しているようだ。「YU7」の価格競争力はかなり高そうだ。ちなみにSU7は21万5900元(約452万円)からなので、「YU7」はSU7の上位モデルという位置づけを兼ねているとも言える。
最新ADASも標準装備でモデルYに勝るコストパフォーマンスを実現か
スペックに関しては、シャオミが認証のために中国工業情報化部(MIIT)に届け出た数字や写真は同省のホームページで閲覧可能だ。グレード構成など詳細は不明ながら、大まかなイメージは確認できる。
●ボディサイズ:全長4999×全幅1996×全高1600mm
●ホイールベース:3000mm
●駆動方式:4WD
●モーター最高出力:前295ps(220kW)/後386ps(288kW)
●システム総合最高出力:681ps(508kW)
●駆動バッテリー種類:リチウムイオン(CATL製)
●車両重量:2405kg
●最高速:253km/h
グレード構成や装備内容まではわからないが、MIITの提出書類によれば、全グレードが前後デュアルモーターによるAWDである可能性もある(エントリーグレードは1モーターRWDの可能性も高い)。またルーフにはLiDERが内蔵されていることから、SU7と同じく全グレードに最新のADAS(レベル2++、いわゆる市街地ADAS)を搭載することが伺える。インフォテインメント機能もSU7に準じるだろう。あとは快適装備やタイヤ/ホイールのサイズ、そして搭載バッテリー容量でグレードの差別化が行われるはずだ。
エクステリア・デザインは、多くのネットユーザーが指摘するようにフェラーリ・プロサングエのイメージと被るのは事実ではある。ボディサイズが比較的近いうえ(プロサングエは全長4987×全幅2028×全高1589mm、ホイールベースは3018mm)、リアフェンダーまわりなどに類似のデザイン処理はある。
とは言え、セダンSU7との共通点のほうがはるかに多く見つかるだろう。実際に「YU7」とSU7にはボディ構造をはじめ、デザイン処理や空力の考え方にも多くの共通点があることがわかる。ちなみにSU7のサイズは全長4997×全幅1963×全高1455mm、ホイールベースのみ「YU7」と同じ3000mmだ。
それぞれの独自性はヘッドランプとテールランプのデザインやドアハンドルの構造、さらにリアエンドのよりレーシーなデザイン処理にうかがわれる。ちなみにシャオミは、デザインコンサルタントとしてBMWで名をはせたクリス・バングル氏を迎えている。
2025年中に2つのニューモデル投入、3列シートのSUVミニバンも控える
2025年春にはSU7のハイパフォーマンスバージョン「SU7 Ultra」を、年央に今回の主役である「YU7」を発売するシャオミ。さらにその先には、3列シートを採用するミニバンタイプのSUV(しかも同社初のEREVもラインナップ)と怒涛のニューモデル攻勢を見せる。増産体制も整いつつあり、王者BYDの牙城、そして高いブランド力がいまだ健在のテスラといえども安泰ではなくなるかも知れない。シャオミの勢いはこの二大巨頭にとって最大の脅威となるだろう。さらにその先には、海外進出も視野に入っているはずだ。