日々、飛躍的な進歩を遂げている自動運転技術。だがその性能を発揮するのは、4つのタイヤが接地していることが前提であり、なんらかの理由でそのバランスが失われればアルゴリズムは破綻してしまう。そんなリスクを回避する研究が、米トヨタの先端技術研究所で行われており、去る2024年7月23日にその進捗状況が文書と動画で公開された。

安全技術を自律タンデムドリフト走行で証明

自動運転技術(AD)や高度運転支援システム(ADAS)など、自動運転技術が急速に進化している。もっとも、クルマである以上、四輪が適切に路面とコンタクトしていなければ、その能力は発揮できない。ハイドロプレーニングや凍結路面などでタイヤが浮いたり、あるいは滑ったりする不測の事態(そしてそれは往々にして悲惨な事故につながる)においては、どんなに優れたADやADASも為す術はない……と考えられていた。だが、人間の英知と最新のAI技術がそんな危険な状況をもコントロールすることができることを証明した。

去る7月23日、トヨタの北米における先端技術の開発拠点「Toyota Research Institute(以下、TRI)」は、米スタンフォード大学で研究を行うスタンフォード・エンジニアリングとおよそ7年間にわたり共同開発している先端自動運転技術の研究成果を発表した。

画像: ドリフト状態を維持しながらも衝突を避けて車両間隔を維持する。

ドリフト状態を維持しながらも衝突を避けて車両間隔を維持する。

実験に用いられたのは、研究中の自動運転技術を搭載した2台の改造GRスープラ(MT車)。ドライバーは同乗しているものの、運転への関与は発進/停止とリアタイヤをスピンさせてトラクションバランスを壊すきっかけを与えるのみ。ドリフト状態の維持と車両の方向を正確に制御するのはAIによる自動運転技術だ。実験に使用された車両には、以下の技術が搭載された。

先頭車には、TRIが開発した再現性のある安全な先導走行を可能にする堅牢で安定した制御メカニズムを搭載。物理の法則に則り、スロットル開度や最大ステアリング角度などのハードウェアの制御により、目的の経路に沿ってドリフト状態を維持する。

画像: ドリフト走行中でもドライバーは運転に介入していない。

ドリフト走行中でもドライバーは運転に介入していない。

チェイスカーには、スタンフォード・エンジニアリングが開発したAI車両モデルとアルゴリズムを搭載。先頭車の動きに動的に適応し、衝突することなく間隔を保ったままドリフト走行を可能にした。

2台ともにWiFiネットワークを共有しており、相対的な位置や計画された軌道などの情報をリアルタイムで交換している。情報は毎秒最大50 回解析され、急速に変化する状況に対応しながらステアリング、スロットル、ブレーキのコントロールを行う。

画像: 実験の合間にはデータを確認して、路面のの温度変化の影響が分析された。

実験の合間にはデータを確認して、路面のの温度変化の影響が分析された。

自動運転における安全システムの新たな可能性を提示

実験では、2台のクルマが並行してドリフト状態を維持するいわゆる「タンデムドリフト」を再現したが、ドリフト走行することが本来の目的ではない。何らかのきっかけで滑り始めたタイヤのグリップをコントロールするとともに、他の車両、歩行者、自転車の存在にも迅速に反応して事故を未然に防ぐための技術開発が本来の狙いだ。

TRIのヒューマンインタラクティブドライビング部門のアヴィナッシュ・バラチャンドラン氏は、今回の実験に際して以下のコメントを発表している。

画像: 「自律タンデムドリフトに成功したことで、将来のクルマの安全性を飛躍的に高めることができるのではないか」と語るTRIのアヴィナッシュ・バラチャンドラン氏。

「自律タンデムドリフトに成功したことで、将来のクルマの安全性を飛躍的に高めることができるのではないか」と語るTRIのアヴィナッシュ・バラチャンドラン氏。

「私たち研究者は、運転をより安全にする方法の探求という目標を掲げて活動しています。ドリフトのコントロールは、モータースポーツスキルのなかでもっとも複雑な操作が求められますが、最新のAIツールを活用して、2台のクルマをタンデムで自律的にドリフトさせることができるようになりました。自動運転技術でそれが実現できるということは、ドライバーのスキルを問わずクルマを極限までコントロールできることを意味します。近い将来の自動車により高度な安全システムを組み込むために、われわれの研究は広範囲にわたる影響を及ぼすでしょう」

画像: プロジェクトで開発されたモーションプランニング、制御、AI技術の一部を組み込んだ自動運転技術が実現するかもしれない。

プロジェクトで開発されたモーションプランニング、制御、AI技術の一部を組み込んだ自動運転技術が実現するかもしれない。

今回の実験は、その成果をわかりやすいかたちでアピールするために「タンデムドリフト」で再現されたが、その普及にはさらなるデータの収集が必要であるとも付け加えている。「今回の実験はあくまで可能性のひとつを証明したものにすぎません。ただこれ(タンデムドリフト)ができるのであれば、将来のクルマの安全性がどこまで高まるのか、想像してみてください」とその将来に含みを持たせる。果たして、“どんな状況下でもぶつからないクルマ”は実現するのだろうか。今後の進展には大いに期待したい。

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