2024年7月19日、住友商事は同社のグループ企業とともに、九州・熊本で「V2G」による電力需給調整事業を国内で初めて開始すること発表した。V2G(Vehicle to Grid)は、EVを蓄電池に見立てて電力系統に接続し、充放電を行うこと。系統電力と再生可能電力による電力需給調整への貢献が期待されている。(タイトル写真はイメージです)

火力/原子力による発電と太陽光発電の調整弁

太陽光や風力などで発電する再生可能電力は、自然由来ゆえに発電量が不安定であるのは宿命だ。ゆえに火力や原子力による既存の系統電力との需給バランスを崩さないように、余剰発電が発生すると系統電力網から遮断されているのが現状である。せっかく発電しても余った電気は、電池などに蓄えなければ捨てられてしまうのだ。とくに日照条件に恵まれた九州電力エリアでは、5年ほど前からこの問題がクローズアップされており、再エネ側の出力制御がたびたび行われている。

つまり、再エネの普及は発電と蓄電池をセットで考える必要がある。政府は2030年には再エネ電力を現在の2割強から4割まで引き上げる計画だが、既存の系統電力と再エネ由来の電力のバランス調整が上手くいかなければ、目標達成は難しいと言われている。その調整弁として蓄電池の存在がクローズアップされている。

EVを蓄電池に見立てたV2G、太陽光発電が盛んな九州から

蓄電池を活用するためには、系統電力と再エネ電力を需給バランスに基づいて緻密にコントロールする必要がある。両者を結ぶ高度なネットワーク技術も不可欠だ。住友商事は2024年2月に、熊本市、JR九州、住友商事九州と連携協定を締結。同年3月には、鉄道沿線地や遊休地を活用した系統電力用蓄電池施設「でんきの駅川尻」を熊本県熊本市に完工した。蓄電池には、中古EVから回収されたリユースバッテリーが活用されている。

画像: 住友商事、熊本市、JR 九州、住友商事九州との連携協定により建設された蓄電施設「でんきの駅川尻」。

住友商事、熊本市、JR 九州、住友商事九州との連携協定により建設された蓄電施設「でんきの駅川尻」。

そして今回、余剰電力を日常的に使われているEVに蓄えるいわゆる「V2G」を国内で初めて開始することが発表された。すでに欧州の一部では導入が始まっているV2Gだが、ようやく日本国内でも取組みが始まったのだ。

画像: 蓄電施設「でんきの駅川尻」の中にはEVから回収された中古バッテリーを利用した蓄電システムが備わる。

蓄電施設「でんきの駅川尻」の中にはEVから回収された中古バッテリーを利用した蓄電システムが備わる。

事業スキームは下図のとおり。具体的には住友商事のグループ会社である「住友三井オートサービス」および「Hakobune」から、熊本市の「白鷺電気工業」、「しらさぎエナジー」にリースされているEVを活用する。EVが駐車場に止まっている非稼働時間帯にEV用充電器を通じて、電力網へ送電(または充電)する仕組み。ネットワークシステムの開発とマネジメントは、バーチャルパワープラント関連事業で知られる「Goal connect(ゴールコネクト)」社が担当する。

画像: 去る7月19日には「EVを活用した需給調整市場参入開会式」が開催された。

去る7月19日には「EVを活用した需給調整市場参入開会式」が開催された。

とくに期待されているのが、太陽光発電による余剰発電の蓄電だ。上述のとおり、九州では再エネの出力制御がたびたびおこなわれているが、電力需要が高まる時間帯にはEVから系統電源網に給電、需要の低い夜間には逆にEVに充電することで電力供給の調整弁的な役割を果たす。結果的に再エネの利用割合も高まっていくことになる。

画像: いわゆる“待機EV”を活用したV2G。高度なネットワークの構築が前提となるが、これが成功すれば出力制御の矛盾を解消する手立てのひとつとなる。

いわゆる“待機EV”を活用したV2G。高度なネットワークの構築が前提となるが、これが成功すれば出力制御の矛盾を解消する手立てのひとつとなる。

今回の熊本県内の一部地域での運用であり、使われるEVも住友商事グループの保有車両に限定されてはいる。もっとも、軽EVの商用車の発売が始まり、事業所単位でまとまった数のEVが配車されるようになれば、V2G導入のニーズも指数関数的に増えていくだろう。いずれ九州全域、そして将来は全国に拡散していく可能性が高い。再エネ電力を現在の2割強から4割まで引き上げる政府の計画は、2030年を待たずして実現する可能性もある。

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