2024年6月4日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とパナソニック アドバンストテクノロジー株式会社は、月面探査ローバー向けのステレオカメラで障害物を検知し、操作画面に表示するAI運転支援システムを共同研究すると発表した。

AI運転支援システム開発には課題も多い

JAXAとパナソニック アドバンストテクノロジーは、ステレオカメラでローバー前方の障害物を検知し操作画面に表示するシステムの共同研究を開始した。

これはJAXAが推進する宇宙探査イノベーションハブ 「太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・活動領域拡大に向けたオープンイノベーションハブ」 にて実施した研究の成果をもとに行われる。ステレオカメラにより月面探査ローバーの安全な移動の妨げとなる岩石とクレータを障害物として検知する機能を向上させ、月面を環境認識する運転支援システムの試作開発が行われる。

画像: 開発中の操作画面イメージ

開発中の操作画面イメージ

近年様々なシーンで深層学習による物体検出モデルが活用されているが、通常その開発には大量の教師データが必要で多大な開発コストが課題となっている。そして災害現場などの危険なシーンへの適応や、宇宙環境のような容易にデータを収集できない場所への適応では、十分な量の教師データを用意する事ができず、AIが必要な性能を発揮しづらいという課題もある。

こうした課題の解決には、高品質なレンダリングによるCG画像を用いて深層学習する方法があるのだが、CG画像と実データ間には当然のことながらギャップが存在する。そのためCG画像に対して深層学習ができたとしても、実際の運用環境では精度が低下してしまう問題が発生してしまう。

ゲームエンジンの「Unity」が月面環境の再現に用いられる

共同研究では、シミュレータにより大量の月面環境を模したCG画像を生成して、それに対して少量の月面の実撮影データを使って敵対的学習・半教師あり学習を実施する。こうして少量の教師データでも精度を低下させない物体検出深層学習手法を採用するという。

画像: CG再現と実際の地形のギャップに対応できるように「ドメイン適応」を行う

CG再現と実際の地形のギャップに対応できるように「ドメイン適応」を行う

ちなみに月面環境の再現については、NASAが公開している月面南極域の3Dデータをゲーム開発エンジンのUnityに取り込み、そこからアルテミス計画の探査ローバーの走行タスク想定地点を切り出し、横から差し込む太陽光を模擬した3Dシミュレーション環境として構築した。

なお、公開地形データは5m/pixelと分解能が低く、月面探査ローバーの移動の妨げとなる10m以下の小さなクレータや岩石の情報が欠落してしまっているため、NASAのマーシャル宇宙飛行センターから発表されている文献を参考に仮想のクレータや岩石を障害物として配置して再現したそうだ。

画像: 月面を再現した仮想環境の構築にはUnityが用いられる

月面を再現した仮想環境の構築にはUnityが用いられる

また、JAXA宇宙探査実験棟宇宙探査フィールドの模擬月面環境で、小型ローバーを使用した走行試験による実証実験を実施。南極域を想定して横から差し込む太陽光を模擬した照明環境でロバスト性を評価し、性能改善を進めていくとしている。

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