2024年5月24日、Jパワー(電源開発)は火力発電用の石炭を輸送する石炭輸送船「黒滝山丸 III(KUROTAKISAN MARU III)」に、商船三井が開発した硬翼帆(こうよくほ)式推進装置「ウインドチャレンジャー」を搭載すると発表。2025年後半に完成する予定だという。

自然エネルギーと燃料のハイブリッド船

乗用車や鉄道、航空機など国内の運輸部門から排出されているCO2の総量は年間約1.9億トン(※)で、日本はこれを2050年までに排出量を実質ゼロ、カーボンニュートラルの実現を目指している。その方策として再生可能エネルギーによる発電、CO2を排出しないパワートレーンを採用、CO2を使って燃料を生成する、CO2を消費する植物由来の燃料を使用など、さまざまな角度からアプローチが行われている。

そんな運輸部門のなかでも船舶業界は、CO2総排出量が5.3%(※)と比較的少ないものの、CO2排出量削減に向けて燃料電池船やアンモニア燃料船、電気船など新世代エネルギー船の研究開発、実証実験、そして商用運行も一部で始めている。

※国土交通省発表の「2022年度の運輸部門における二酸化炭素排出量」より

現在の方針は「従来なかった最新技術によるCO2削減」がメインのように感じられるが、一部で古来から使われてきたエネルギーを見直し、もう一度活用しようとする動きも出ている。

2009年に東京大学が主宰する産学共同研究プロジェクト「ウィンドチャレンジャー計画」として始まった、風力と帆を利用して大型船舶の燃費を向上させようする計画は、2018年に商船三井と大島造船所が中心となって引き継ぎ、現在はウインドチャレンジャープロジェクトとして進行している。

とはいえ古来の帆布を使うのではなく、軽量で耐久性に優れたガラス繊維強化プラスチック(GFRP)複合材による硬翼帆式風力推進装置を搭載する、言ってみれば風力と燃料によるハイブリッド船が出来上がるわけだ。

硬翼帆の大きさは4段階で高さを変化させることで推進力を調整、また回転式とすることで進行方向を変化させられる。こうした可動部は天候や風向きなどのデータをICTを通じて取得・解析して自動制御されるのだという。この可動性は停泊時のスペース効率向上や視界確保にも寄与するという。

画像: 商船三井と大島造船所が開発した硬翼帆式風力推進装置「ウインドチャレンジャー」。写真は東北電力の松風丸に搭載されたもの。

商船三井と大島造船所が開発した硬翼帆式風力推進装置「ウインドチャレンジャー」。写真は東北電力の松風丸に搭載されたもの。

この硬翼帆式風力推進装置を世界ではじめて搭載した船舶「松風丸」は2022年に竣工し、石炭運搬船としてすでに運行している。東北電力専用船として、オーストラリアやアメリカなどの海外と日本を往復する石炭輸送に従事し、その結果として、硬翼帆が稼働している状態であれば1日に最大17%、1航海平均で5~8%の使用燃料削減効果が実証されたのだという。

松風丸は硬翼帆式風力推進装置の搭載を前提に新造された船舶だ。しかし、タンカーをはじめとする大型船の寿命は長く約20年と言われている。すでに就役している多くの大型船に搭載できたとすれば、長期間にわたって燃料とCO2排出量を削減できるはずだ。そこで、2021年12月に竣工したばかりの黒滝山丸III(Jパワー)を改造する形で搭載することが今回決定された。

2025年後半に搭載され、従来の同型船と比較して、日本・オーストラリア航路で約5%、日本・アメリカ西岸航路で約8%の燃料削減効果が見込まれるという。パーセンテージにすると小さく見えるが、一度の航海で使用する億単位の燃料費を考えると、削減効果の大きさが想像できる。もちろんCO2排出量の削減効果もだ。

上述した松風丸も黒滝山丸IIIも、搭載する硬翼帆式風力推進装置は1基だが、船舶のサイズや性格などによって「直列に7基」や「並列に4基」などさまざまな並べ方で増やし、効率をさらに向上させることもできるという。またCO2実質排出量ゼロの燃料エンジンを組み合わせれば、その効果はさらに上昇するだろう。

商船三井は「環境ビジョン2.2」の中で、硬翼帆式風力推進装置(ウインドチャレンジャー)搭載船を2030年までに25隻、2035年までに80隻投入することを計画している。今後さらに技術を高度化させ、安全性を高め、自然エネルギーを活用するなど、温室効果ガスの排出削減と脱炭素化に貢献していくとしている。

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