水素を燃やすカーボンニュートラルな内燃エンジン
水素燃焼エンジンは、しばしば水素燃料電池と混同されるがまったくの別物である。水素燃料電池は水素を酸素と化学反応させて電気を発生させる“発電システム”だが、水素燃焼エンジンはガソリンなどの化石燃料に代わり水素を燃料として燃やす純粋な内燃機関だ。
日本でもトヨタを中心としたコンソーシアムがその実現に向けて研究開発を続けている。2024年1月に開催された東京オートサロンで、トヨタの豊田章男会長は内燃機関の開発継続を表明したが、それが水素燃焼エンジンを指していたのは想像に難くない。
カーボンニュートラルの目標達成に向けては電動車一辺倒に思われることもあるが、実は内燃機関でもさまざまな試みが行われているのだ。さながら現在は、走りながら実験=研究・開発が行われている状況とも言える。
まずは2026年のル・マン24時間耐久参戦が目標か
今回発表された「アルペングローHy4」は、2022年10月に公開されたコンセプトモデルのアルペングローを進化・発展させた初のローリングプロトタイプ(実走可能なテスト車両)だ。コクピットの左右には水素タンクをレイアウトしており、ドライバーの背後には水素燃料に最適化された2Lの4気筒ターボエンジンが搭載されている。
その最高出力は340hpとアナウンスされているが、今年中には新設計のV6エンジンを搭載したローリングプロトタイプ第2弾の公開も予定している。ちなみに車名の「Hy」は水素、「4」は搭載する4気筒エンジンに由来している。
アルペングロー開発の背景にあるのは、直接的にはル・マン24時間耐久レースで2026年から新設される水素燃料を使う「H2」クラスへの参戦だ。将来はF1も水素が導入される可能性が高いという。だが、開発の目的はモータースポーツだけにとどまらない。内燃機関の技術を継承し、EVやFCEVなどの電動車と両立する将来のソリューションを用意するのが、アルピーヌおよび親会社であるルノーの考え方であるという。
レーシングカーでは終わらないその先にある可能性
アルピーヌは2022年のパリショーで水素燃焼エンジン開発の狙いを「カーボンニュートラルを実現しながら、圧倒的なパワーとサウンドを提供し、ドライビングプレジャーを備えた理想的なパワーソースである」とコメントした。
さらに「EVを始め電動車は、好むと好まざるにかかわらず将来は市場の60〜70%を占めることになるが、残る40〜30%の領域にはさまざまなソリューションが混在することになるだろう。水素は燃料電池車と共存する内燃機関の燃料として有望だ」とコメントを残している。もっとも、水素の量産や供給インフラ整備には課題が山積しているという現状から、目を逸らすことはできないが…。
つまりは、カーボンニュートラルは電動車一択ではない。現状ではEVほか電動車が先行しているが、水素燃焼技術がそれに追いつく日もやってくるかも知れない。アルピーヌでは水素燃焼エンジンを「モータースポーツの世界に限らず、公道を走るさまざまなモビリティのパワーソースとしても検討している」という。
当面、同社は6月に正式発表される「A290」を皮切りにEVシフトを強力に進めていく計画だ。とは言え、そのさらに先には電動車と共存する内燃機関搭載車の存在があるのかも知れない。エキゾーストノートを轟かせ走り去る未来のスポーツカーの姿に、思いを馳せてみるのも悪くはないだろう。