社会課題の解決手段として電動車椅子に注目が集まる
免許を返納するドライバーが増える一方、地域交通の要だった路線バスの減便、あるいは路線バスと運行エリアが重複するコミュニティバスや無料通院バスなどは路線バスと統合される動きが加速している。高齢化社会、バスやタクシーのドライバー不足など、問題の根は深い。
そして、この問題は過疎化が進む地域だけではなく、都市部も含め全国いたるところで発生している。いまや、近所のスーパーに行ったり、病院に行ったり、生活に必要な行為が大仕事になりつつあるのだ。
そこで注目を集めているのが、電動車椅子である。人間は歳を重ねれば、だれでも歩くのが億劫になるものだ。免許は返納したけれど、まだ介護は必要ではない。バス便も減ってしまい最寄りのバス停もなくなってしまったけれど、自分の意思で自由に移動したい。そんなシニア層やその子供世代が電動車椅子に関心を寄せている。
近年増えているのは、シニアカー、セニアカー(これはスズキ製品の呼称で登録商標)、あるいは電動カートと呼ばれるタイプ。医療や介護の現場で使われている実用本位(これはこれで大切だ)の電動車椅子ではなく、デザイン性や公道を走るための機能・安全性を充実させている。
新しいモビリティと呼んでいいほどスタイリッシュな乗り物になっているのだ。走行距離も大幅に伸びており、一回の満充電で30kmを超えるモデルも登場している。
バイクのようにバーハンドルで操作するタイプが多く、「ハンドル型電動車椅子」と呼ばれることもある。従来からある手元のジョイスティック(レバー)で操作するものは、「ジョイスティック型電動車椅子」と呼ばれる。
道路交通法では「車両」ではなく「歩行者」扱いに
電動車椅子で公道を走る場合は、道路交通法ですべて歩行者と同じ扱いになる。つまり、運転免許証は必要ない。またヘルメットの着用も義務化されていない。
最高速度は歩行者の早足と同等の6km/hと決められている。公道を走る場合、車道と歩道が区分されていれば歩道を走り、歩道がなく路側帯がある場合は右側の路側帯、歩道も路側帯もない場合は道路の右側を走行しなければならない。原付バイクや自転車は軽車両なので左側通行だが、電動車椅子は右側通行であることは道路を利用するすべての人が知っておくべきだ。また、歩道では歩行者の通行を妨げるような走り方はNGだ。
屋内施設の可否については、施設管理者の判断によるとされている。また、鉄道の利用に関しても各社のルールに一任されるように法改正された。いずれの場合でも、利用できる範囲は拡大されている。
電動車椅子を使った近距離移動サービスも始まっている
高齢者や身障者だけでなく、誰もが利用できる近距離移動のインフラとして電動車椅子を活用しようという取り組みも広がっている。たとえばWHILL(ウィル)は、羽田空港や関西国際空港ほか自社の電動車椅子で人を運ぶ移動サービスの拡充に取り組んでいる。
さらに観光地やキャンプ場など徒歩での移動が少々しんどい場所での貸し出しサービスを各地で開始するなど、車体の販売だけにとどまらない移動サービス事業を全国で展開している。
階段の昇降も可能にする車椅子ロボット「movBot ACE」
車椅子の前に立ちはだかる最大の難所、それは「階段」である。鉄道駅ではエレベーターの設置が進んでいるが、一歩街に出ればそこかしこにあるのが階段だ。わずか数段であっても、車椅子に座ったままではそこから先に進むことができない。
そんな宿命的な課題をロボットテクノロジーで解決したのが、車椅子ロボット「movBot(ムーボット)」。開発したのは、神奈川県相模原市に本拠を置くアクセスエンジニアリングだ。movBotは「ACE」、「Nurse」、「Office」のラインナップを揃えるが、なかでもパーソナルモビリティとしての活用が期待されるのが「ACE」である。階段の昇降・段差越えは自動で認識するので特別な操作不要、かつ座席は水平を維持する。また昇降に際しては徒歩と同じように前進方向で操縦できる。さらに転回することなく横方向への並行移動が可能な車椅子ロボットだ。
ACEには一般公道用の「ACE-Personal」、エレベーターのない公営住宅などの階段昇降用「ACE-Stair」、さらに自動配送用ロボットとして「ACE-Atom」のラインナップも計画されているようだ。早期の発売に期待したい。
医療や介護の現場からスタートした電動車椅子は、いまや年齢や障害に関係なく、だれもが気軽に楽しく移動するためのツールへと進化を遂げようとしている。街中はもちろん、公共施設やレジャースポットでも、見かける機会が増えていくに違いない。