最大のメリットは充電時間の大幅な短縮
800Vアーキテクチャーとは、簡単に言えばバッテリーや駆動モーターなどEVのシステムを作動させる電気の電圧を一般的な400Vの倍となる800Vに高めたものだ。2020年にポルシェ タイカンとアウディe-tron GTが初めて量産車に採用し、ヒョンデ、GM、ロータス、BYDなど、続々と800Vの高電圧で作動するEVが登場している。昨年登場したテスラのサイバートラックも800Vだ。
800V化によってユーザーが享受できる最大のメリットは、「充電時間の短縮」だ。現在はまだ主流の400Vアーキテクチャーに対して、 “理論上”は半分の充電時間で済むことになる。
電圧(V)は電気を押し出す力、電流(A)は電気が流れる量だ。たとえば400VアーキテクチャーのEVを200Aの電流で1時間充電した場合は最大で80kWh充電されることになる。800Vアーキテクチャーならば、30分で同じ量の充電が可能になるのだ。
もっともリアルワールドでは、車種や充電器ごとに充電プログラムが異なるので、これはあくまで理論値ではある。また800V対応の急速充電器(およそ350kW級の出力)は、EV先進国・地域でもまだ普及の途上にある。日本でもさまざまな関連法の整備や規制緩和が進みつつあるが、ようやく150kW級の設置が始まったばかりであるのが実情だ。
そこで最新EVのひとつである「アウディQ6e-tron」は、800Vアーキテクチャーを採用しながら「バンク充電」方式を併用している。Q6e-tronに搭載されるバッテリーの容量はグロス100kWh、最大270kWの充電能力が与えられている。800Vに対応する急速充電器ならば、電池残量10%から80%までわずか21分で充電できる。
とはいえ、270kW以上の出力が可能な急速充電器は上述のとおり欧州でもまだそれほど多くはない。そこで充電器が800Vに未対応の場合は、自動切換えでバッテリーの充電容量を二分割して最大135kWを並列かつ同電圧で充電する方式を採用している。これなら800Vアーキテクチャーのメリットを実感できるだろう。同様の方式はポルシェも採用している。
コストの壁はあるものの今後は急速に増加
800V化にはほかにもメリットがある。配線類の線径を細くすることができるので、車両重量そのものを低減できるのだ。配線=ワイヤーハーネスは想像以上に重いのだが、電流を倍の電圧で流すことができれば、その線径は理論上は半分で済む。モーターの小型化にも貢献し、さらにハーネスからの放熱量も減ることからクーリングシステムも簡略化できる。つまり車両の軽量化が進むことで航続距離が延び、電費が良くなるのだ。この理屈をモーター本体に活用すれば、小型化と高出力化を両立することも可能だ。
とは言えデメリットもある。エンジン車と異なり、EVは電装部品の数が圧倒的に多く駆動系以外での消費電力も大きい。バッテリーや駆動系を中心に800Vで作動させる一方で、空調や各種制御にはDC-DCコンバーターで48Vに降圧させる系統も織り込まなければならない。これらの要件は設計段階から盛り込まなければならず、それゆえ“アーキテクチャー(構造・様式)”と呼ばれる。さらに現状ではまだ400Vが主流のため量産効果が発揮できず、コスト面ではかなり割高になっている。
そのメリットを活かすには急速充電器の性能アップも欠かせないが、高出力化に伴って充電ケーブルの発熱量も増える。それを抑制するにはケーブルを空冷ではなく液冷にするのが効果的であるが、これがまだ高価だ。また充電器本体のマネジメントもさらに細かく調整することが求められる。また、国や地域で事情は異なるが、設置に関連する費用やランニングコストの問題もある。ビジネスとして成立しなければ、事業者の参入は難しい。
とは言っても、すでに800Vアーキテクチャーを採用するEVは世界的に増加しつつある。2025年以降に登場すると言われる日本の次世代EVも、この流れに乗ってくるのは間違いないところだ。