“小さな出来事が結構大きな問題につながっている”
電気自動車(EV)の不思議なトリックにはまってしまっていた。正直に話そう。そう、EV所有はガソリン車と比べて経済的に素晴らしく安価だと錯覚していたのだ。何を持ってそう勘違いをしていたのか? 恥ずかしい話だが、EV所有にかかる経費(つまり充電にかかる電気料金)はほとんど無料と考えていた節がある。まあ、考えてみればそんなことがあるはずがなく、電気は使えば料金はかかる。しかし、それがガソリン車の給油にかかる料金のように可視化できなかった。
そもそも家庭で使用する電気、そこで発生する電気料金に関して人々はどこまで真剣に気を配っている? あまり細かくチェックしないのは筆者だけ? 実は筆者は家庭で使う電気、そこで発生する電気料金に関しては、これまであまり気を配ってこなかった。もちろん使わない部屋の電気は消したし、夏場のエアコンは設定温度を下げ過ぎないようにしたし、白熱電球をLEDに交換するといった世間一般の所作をおろそかにしていたわけではない。しかしそれらはいわば受動的努力であり、自宅にソーラーパネルを付けて(東電に)支払う料金を下げる努力をするとか、東電からベンチャーに変えて料金を下げるとかの能動的な努力は行ってこなかった。それは、電気は高価なものだという意識が薄かったからだ。
EVを試乗して関西地方へ遠出することが多かった。メルセデスEQE、BMW i7、ポルシェタイカンといった高級EVを借りての旅だった。それらのクルマは満充電後の走行距離が600Km〜700Kmといった性能で、東京〜大阪間は無充電で走行できる。走行距離が100Km、200Km と言われていたのはつい数年前。バッテリーの進化が夢のようだ。それでも安全のために途中で急速充電をする。150kW充電器で30分。目的地まで全行程の40%ほどを残してバッテリーは80%の充電がなされた。余裕の旅が出来た。
さて、問題の電気代だ。しかし、現在我が国に設置が進んでいるEV用充電器には、それが普通充電器であれ急速充電器であれ料金が表示されない。いや、表示される充電器もあるらしいが、その数は限られているらしく、これまで行き当たったことがない。これには理由がある。それは、ユーザーによって電気会社との契約内容が様々なため、簡単な料金計算ができにくいということだと理解する。ユーザーの受電方式も初めての客であったり会員制登録者であったりする。さらに、現在は急速充電は時間制、普通充電は従量制と料金体系が複雑だ。加えてさらに説明を加えると、充電インフラは補助金や助成制度が支えているところもあり、それらは直接ユーザーには関係ないとは言え、料金に反映されるところもあるかもしれない。
こうした背景をもってしても、EVユーザーにとればやはり充電時には電気使用料金が明示された方が良いのではないか。家庭での充電はさておき、出先で急速充電などを行った場合には重要だと思う。そして、EVに使用した電気料金の額を確かめ、ガソリン車(ディーゼル車でも良いんですよ)の燃料代と比較することでEV所有の自己満足感がアップすることになるかもしれない。そして、自己満足感は自己を飛び出して知人に推薦する行為に変わる。EV増加はこうして叶えられる・・・と、ならないか? 地球はそれを待っている。
EV素人が我が国のEV経済の現状を俯瞰したとき、ここに書いたような小さな出来事が結構大きな問題につながっているように感じた。地球環境だとか化石燃料枯渇だとか言う前に、EV使ったらどれだけ得するの、という視点こそ恐らく誰もが持っている疑問というか期待ではないか。なぜあなたはEVに乗るのか? 私は地球の未来を憂えているから少しでもCO2削減に寄与したいからです、という自己満足はおいておくとして、本音としては電気の方がガソリンより安上がりだからだよ、という答えこそ誰もが欲しがっているものではないだろうか。安いということ、それは大切な要素なのだ。しかし、損得は同じ舞台で語られるということは忘れずに。「メルセデスEQEの電費、俺の乗るガソリン車より高いぜ」と言ってはいけない。そう言いたい人は、まずメルセデスEQEと同クラスのガソリン車(例えばメルセデスEクラスやSクラス)を買って燃費を調べてから発言した方が良い。メルセデスEQE乗る人は、そもそもヤリスやフィットと燃費(価格)競争をしようと思っていないのです。同クラスのガソリン車に比べてEVの電気代は安価、ということを知るべきです。世の中の仕組みとはそういうことなんです。
で、肝心の電気代。ガソリン車と比べてどれだけ安い? 様々な資料を調べた結果、同じクラスのクルマで比較した場合、EVの電気代はガソリン車の燃料代の約7〜8割という数字が多かった。つまり、私が冒頭で書いた「EVの電気代はガソリン代と比べて相当に安価」というのは間違い。そのことを確認するためにも充電器には料金の表示が欲しいなあ、というのが正直な気持ちです。(了)
●著者プロフィール
赤井邦彦(あかいくにひこ)自動車雑誌編集部を腰掛け(!?)にしたあと1977年に渡英、4年間にわたって欧州の自動車事情、自動車レース(主としてF1)を取材。国内外の雑誌に寄稿。帰国してからは事務所を立ち上げ、自動車関連の分野を中心に海外取材コーディネート、広告コピー制作、単行本の執筆などを行う。現在、自動車レース関係のウエブサイトを主宰。英Guild of Motoring Writersの会員。