欧州ライバルをけん制する“公式スパイショット”をSNSで公開
去る4月7日、中国SNSのWeibo(微博:ウェイボー)にてBYDグループのプレミアムブランド「デンツァ」が、一部で噂になっていたフラッグシップサルーンの車名が“DENZA Z9 GT”であることを正式に発表した。
ほぼ同時期にWeibo上には、ごく軽い偽装が施されているテスト車両(ドイツ・シュツットガルトで撮影されたとされる)の画像が大量に出回った。シューティングブレーク風のフォルムがライバルと目されるポルシェ パナメーラを彷彿とさせる。4月25日から5月4日まで開催される「北京モーターショー2024」でのワールドプレミアを前にしたティザー活動の一貫であることが伺われる。
デンツァ ブランドはまだ日本には上陸していないものの、昨秋開催されたジャパンモビリティショー2023でBYDブースにラグジュアリーミニバンの「DENZA D9」が展示されていたのでご存じの方もいるだろう。そもそもデンツァはBYDとメルセデス・ベンツが技術提携を目的とした合弁会社として2010年に設立された(2022年に株式の90%をBYDが取得)。現在はD9のほか、SUVの「N7」と「N8」をラインナップしている。
Weiboで正式に公開されたのは、デザインスケッチが添えられた告知画像のみ。一部の中国現地メディアはBYD上級幹部のコメントとして、「“ポルシェ パナメーラに勝るとも劣らない性能を達成している。全長は5mを優に超えるが最小回転半径は5m以下、さらに90km/hで高速スラローム(いわゆるエルクテスト)をこなす”」と紹介している。発売は本年後半から始まるようだ。
「Z9 GT」は兄弟車「U7」よりパフォーマンス指向で差別化か
その真偽はさておき、Z9 GTのEV性能を暗示しているのが、本年1月15日に同じくBYDのラグジュアリーブランドである「ヤンワン(Yangwang:仰望)」が公開したハイパーラグジュアリーサルーン「U7」の存在だ。Z9 GTと同じく、欧州市場を強く意識している。
U7は全長5265×全幅1998×全高1517mm、ホイールベース3160mmという堂々たる体躯で車重も3095kgいうヘビー級。にもかかわらず、最高速は270km/hを誇る。先行して発売されたラグジュアリーSUVの「U8」と同じく4輪に独立したモーターを備え、その総出力は960kWオーバー(1305ps以上)に及ぶ。この強大な駆動力を活かすのがプレミアムカー専用のe4プラットフォーム、搭載するBYDブレードバッテリーは135.5kWhという大容量だ。
BYD独自の電子制御エアサスペンションシステムに加え次世代ボディコントロールシステム「DiSus」を搭載しており、その場で360度回転する “タンクターン”も可能である。これらは上述のDENZA幹部のコメントと符合する。
U7はすでに発表済みであるものの、納車は本年後半からと予告されている。現時点ではあくまで可能性でしかないが、同じBYDグループのフラッグシップサルーンでありパフォーマンスと最先端技術を前面に押し出しているあたりに、U7とZ9 GTが多くを共用している可能性は高い。生産開始時期もほぼ同時である。
欧州プレミアム市場を攻略するにはブランド価値も必要
さらに、両社とも“グローバルプレミアムブランド”を標榜しており、当初から中国国内だけではなく輸出市場をメインに据えている。なかでも欧州市場を重視しているのは、Z9 GTの公式スパイ写真を見れば一目瞭然だ。
欧州委員会は中国生産車に高い関税を課すべく調査中だが、パフォーマンスを重視する欧州の富裕層にとっては、価格は二の次になるかもしれない。件のテスト車両の写真にはポルシェ パナメーラとフェラーリGTC4ルッソが写っているあたりに、DENZAとBYDの自信そして欧州市場攻略にかける本気度が窺われる。
パフォーマンスだけでなく、ADAS機能でもいまや世界トップレベルにあると言われる中国。もっとも、プレミアムセグメント、なかでもフラッグシップサルーンの世界では性能だけでなくストーリー性や顧客サービスなどさまざまな要素が絡み合ってブランド価値を高めている。果たして、デンツァそしてBYDは、どのような青写真を描いているのだろうか。