電気は需給バランスが崩れると大変、現在は火力発電が調整弁
電気代の高騰が続いているが、一方で燃料代がかからない再エネの発電を止める「出力制御」も行われている。“このご時勢にもったいない”という声もあるが、せっかく発電したのに、なぜそれを利用しないのだろうか。
電気の特性を思い出していただきたい。「電気は生産する量と使う量がイコールでなければならない」という大原則だ。電気は必要以上に発電しても、余ったぶんは(電池などに蓄えられなければ)“捨てられる”のである。つまり、送電網から遮断されるのだ。これは火力、原子力、地熱……そして再エネを問わず、余剰電力の活用はごくわずかだ。
送電線や変圧器に流すことができる電気の量に上限がある。需給のバランスを超えた電気を流すと、電流の周波数(東日本は50Hz、西日本は60Hz)が乱れたり、最悪の場合は大規模停電が発生してしまう。
そこで各電力会社は、需要に合わせて、電力供給量をオンデマンドで調整している。電気の使用量(総需要)は一日の中でも常に変動しており、リアルタイムの調整が行われているのだ。さらに季節的な変動もあり、気候の良くなる春と秋に電力需要は減少する傾向にある。
現在、その調整弁として機能しているのが火力発電だ。水力、原子力、地熱は出力を短時間で小刻みに調整することができないので「長期固定電源」と呼ばれている。一方、石油/ガス/石炭などによる火力発電は、火力の調整が比較的容易なので従来から需給調整弁としての役割を担っている。つまり、日常的に「出力制御」を行っているのだ。
再エネの発電量は天候に大きく左右されるという宿命
昨今、話題に上っているのは再エネ、つまり太陽光や風力によって作られた電気である。政府は2030年に再エネ電力を現在の2割強から4割まで引き上げる計画だが、自然由来の発電ゆえに発電量の調整が効かない。たとえば晴天で風の強い日が続けば発電量は一気に増えるが、雨天や曇天で風が吹かない日は一気に減る。
たとえば、日照条件に恵まれメガソーラーの建設が盛んだった九州電力エリアでは、比較的早期からこの問題がクローズアップされており、5年前に初めて再エネ電源の出力制御を実施した。
2018年のゴールデンウィークにあたる5月3日の13時に、九州地方における再エネ電力は、全需のうち93%に相当する量を記録した。つまり、この時間帯は、九州エリアで使われた電気のほとんどが再エネだったことになる。制御不能の一歩手前である。
再エネシフトは全国で進んでおり、出力制御は全国で行われるようになってきた。2022年は北海道、東北、中国、四国、沖縄の各電力会社で実施。2023年には中部、関西や北陸エリアでも、そして2024年にはついに東京電力エリアでも実施される見込みだ。
再エネシフトが世界中で進展する中、出力制御はいつまで?
再エネの出力制御が行われるのはごく短時間で、一定以上の発電能力をもつ事業者が対象だ。停電するわけでもないので、利用者が実感することはない。では、なにが問題かと言えば、せっかく作った電気=エネルギーを利用しないまま“捨ててしまう”ことだろう。
たしかに燃料代はいらないが、設備投資や維持管理には多大なコストがかかる。その影響を受けているのが、再エネの事業者という構図だ。出力制御を実施している時間帯の売り上げはなくなってしまう。さらに各エリア間で電気を融通する「地域間連携線」も再エネ優先が徹底されていないので、結果的にだぶついた電気は発電するそばから捨てられてしまうのだ。
これを解消する手段として、出力制御中に作られた再エネの電気を貯蔵する「大型蓄電池」がクローズアップされている。とはいえ、家庭用の太陽光発電ならまだしも事業として活用できる容量となればかなり高額だ。
政府は再生可能エネルギー(再エネ)を「主力電源化していく」ことを打ち出しているが、その実現に向けた制度の改革や支援/助成(事業者や蓄電池メーカー対象)の効果が表れるのはまだこれから、というのが現状だ。
火力発電への依存度を段階的に減らしていくとともに、再エネによるエネルギー自給率をアップさせて「出力制御」の実施を減らす方策が求められている。