ニュルのラップタイムを26秒短縮して7分7秒55を記録
ニュルブルクリンク北コースのラップタイムは、ハイパフォーマンスカーに関心を寄せるドライバーにとって特別な意味をもつ。なかでも欧州の高級車マーケットでは、いくらゴージャスな内外装でもニュルのラップタイムがクラス上位になければ、その価値を認めてもらえないこともあるほどだ。つまり、ブランディングやクルマのセールスにも影響する特別な意味を持つ数字なのである。
現時点でのEV最速記録は、2018年に中国のニオEP9の“6分45秒90”とされている。EP9は2017年から19年にかけて80台前後が生産された4モーター全輪駆動のハイパースポーツだが、公道仕様は一桁しか生産されていない。つまり、ほぼサーキット専用車のようなクルマである。記録は認めつつ、これを量産車と呼べるかどうか意見が分かれるところだ。
継続生産されているEVでは、クロアチアのリマック ネヴェーラが2023年に記録した“7分05秒298”が現在の最速。もっともネヴェーラはいわゆるハイパーカーであり、年間の生産台数は限られる。量産EVとしてカテゴライズするには無理がありそうだ。
そうした観点では、ポルシェ タイカン、あるいは2023年6月に“7分25秒231”を記録したテスラ モデルS プラッドが、量産EV最速の座を競っているのが現状と考えて良い。
ちなみにタイカンとモデルSのライバル関係は2021年9月に始まる。当時、量産EVの最速記録は2019年8月に計測されたタイカンターボの7分42秒3だった。2021年9月にテスラがモデルS プラッドで7分35秒579を叩き出し、ポルシェを王座から引きずり落としたのだ。
闘争本能に火が着いたポルシェは、翌22年8月にタイカンターボSで7分33秒350を計測、再び王座に返り咲く。ところが翌23年6月には前述のとおりテスラが7分25秒231を計測して、再び量産EV最速の称号を手に入れたばかりだったのだが……。
今回、タイカンが記録したタイムは、モデルS プラッドのそれを18秒も短縮したことになり、世界最速の量産EVの座に返り咲いた。ポルシェの開発ドライバーであるラース・カーンは「とにかく全力で走った。できる限りのことはしたつもりだ」と、ポルシェの威信をかけたアタックに成功してほっとした様子だった。