ロボットの極めて緻密な構造には驚きも
このデモを見て凄いと思ったのは、この試験デモに使われた台座の動きだ。そのサイズはUFO Pro Blackの場合で1680×2950mmの畳3枚分の広さとなっており、高さはわずか100mmしかない。この状態で時速100km/hでプログラム通りに高精度に走行してみせたのだ。一体、どんな仕組みになっているのか。
この日は、デモを終えた段階で、幸運にもUFO Pro Blackを解体する作業現場に遭遇。その中身を見ることができた。
まずUFO Pro Blackの上に載せたダミーは、ほぼウレタン製のボードをマジックテープで貼り合わせたもの。なので衝突してもこれらがバラバラになるだけで、組み直せば元の状態へと戻すことができる。とはいえ、これは想像していたとおりだ。
驚いたのはUFO Pro Blackの内部だ。デモが終わり、車載に積載する工程の中でUFO Pro Blackの内部を見ることができたわけだが、それは想像を超える緻密な造りとなっていた。前輪で向きを変え、後輪は2つの駆動モーターの動力をチェーンによって伝える仕組みだ。車輪の大きさは200mm弱ぐらい。この車輪が高速で回転して100km/hという猛スピードでダミーを載せて疾走するのだ。
内部にはGNSSアンテナが備えられ、この助けも借りて速度追従精度はNCAP許容誤差内に収まる±1.0km/hで、横位置追従精度も±50mmとこれまたNCAP許容誤差内に収まる高精度ぶりを発揮する。これによって何度でも同じ条件で走行することを可能にしているのだ。
しかも、このADAS試験用ロボットは周辺部を解体して、車両での運搬に適したサイズにまで小さくできる。その時の重量は126kgとなり、試験を行う場所へ簡単に運搬することを可能としているのだ。解体の作業はスムーズに行われて、30分も経たないうちに積み込み作業へと移行していた。
ADASのレベルアップにはロボットが欠かせない
ただ、このADAS試験用ロボットはどの会社も1台、数千万円の価格を提示しており、大手企業であっても簡単に購入できる代物ではないことは確かだ。そこで、各社とも力を入れているのが、試験の代行や機材の貸し出しだ。試験を行う場所としては、このJARIを使うことが多いそうだが、クローズドな試験では指定された場所へ出向くことも可能だという。
ここで気になったのが、デモに参加したADAS試験用ロボットの製造元がすべて欧州メーカー製であったことだ。これについて、同業の某日系メーカーは「現在のADAS試験のデファクトがヨーロッパ中心になっている以上、地場のメーカーとして関わり合いが自然に深くなっているし、そのコストも半端ではないかけ方をしていることが背景にある」と話す。
また、このADASの検証をソフトウェアでのシミュレーションで行う方法も提案されているが、センサーの特性上、条件によっては実際の状況を再現するのは困難という話もある。
つまり、重要なのは正確で再現可能な試験シナリオの実行にあると言っても過言ではない。しかも、ADASは今後もレベルアップしていくことは間違いなく、そういった意味でもこうしたロボットの役割はますます重要度を増していくことになりそうだ。
●著者プロフィール
会田 肇(あいだ はじめ)1956年、茨城県生まれ。大学卒業後、自動車雑誌編集者を経てフリーとなる。自動車系メディアからモノ系メディアを中心にカーナビやドライブレコーダーなどを取材・執筆する一方で、先進運転支援システム(ADAS)などITS関連にも積極的に取材活動を展開。モーターショーやITS世界会議などイベント取材では海外にまで足を伸ばす。日本自動車ジャーナリスト協会会員。デジタルカメラグランプリ審査員。