ドラレコの主な機能を音声で操作できる
ケンウッドはこの「デジタルミラー型」ドライブレコーダーに、「ミラレコ」という愛称を付けている。“ルームミラー”と“ドライブレコーダー”を組み合わせた造語だが、これがわかりやすいとして販売の現場でも使われ始めているとも聞く。それだけ注目度が高いドライブレコーダーということなのだ。
そんな中で発売された「DRV-EM4800」は、液晶ディスプレイ部に大画面12型IPS液晶パネルを採用し、前後撮影用カメラを別体型としたのが新たなポイントだ。中でもこれまで前方撮影用カメラは本体と一体化していたため、フロントガラス中央にあるADAS(先進運転支援システム)用ユニットとの干渉がどうしても避けられなかった。しかし、その影響を受けない場所への取り付けが可能になったのだ。
さらに「ミラレコ」共通の機能としてDRV-EM4800で採用されたのが、タッチパネル機能と音声コントロールによるインターフェイスだ。タッチパネル機能は言わずもがな、画面をタッチして各種設定が行えるものだが、ミラレコの場合は画面サイズが大きい分、操作がとてもしやすい。それに加えて音声による操作ができるため、その使い勝手の良さはドライブレコーダーの中で群を抜いていると言ってもいいだろう。
というのも、この機能を使えばドライブレコーダーとして使う主な機能を音声で操作できてしまうからだ。たとえば「写真撮影」と声を発すれば静止画撮影を、撮りたいシーンに遭遇したら「録画開始」と発すれば上書きされないイベント記録として保存される。画面の切り替えも音声コマンドに含まれ、こられの操作が運転中でも前方から視線を動かすことなく操作できるのだ。
しかも、DRV-EM4800ではその認識精度が明らかに高まっていた。それだけに安全面でも大きなメリットがあり、何よりこの便利さを一度使ったら病みつきとなることは確実だ。
ルームミラーとしての機能もこれまでになく充実している。新搭載の「表示画角調整機能」は、ディスプレイに映るサイズを6段階で調整できるようにしたもの。これによって、後方車との距離感をつかみやすくするのだ。さらに、リバース検出ケーブルを車両側と接続すれば、後退時は自動的にリアカメラのアングルを下向きに切り替えてもくれる。これらはまさにデジタルミラーならではの特徴をうまく活かした機能と言っていいだろう。
その前後2カメラには、新たに明るく低ノイズで色再現性に優れる裏面照射型CMOSセンサー「PureCel Plus」が採用されている。これに加え、ケンウッド独自の「Hi-CLEAR TUNE(ハイクリアチューン)」を施すことで、夜間やトンネル内などの暗いシーンでは低ノイズでクリア感のある映像で撮影でき、明るいシーンでは抜けの良いスッキリとした色再現性を実現した。
年配はディスプレイ上に焦点を合わせにくいことも
今回は昼間での試乗だったため、トンネル内を組み合わせて走行することでその実力をチェックした。
明るい場所での映像は、とにかく自然で光学式ルームミラーとの差をほとんど感じないほど。発色も良好で昼間の明るさの影響もなく、リアウインドウにカメラが取り付けてあることもあり、車内の影響をまったく受けずに広々と映し出されるのもいい。また、組み合わせるレンズは前後2カメラとも水平133度/対角162度の広視野角レンズを採用しており、車両の周囲の状況をくまなく撮影できていた、
一方でトンネル内ではどうか。本機ではリアウインドウに施されることが多いスモークガラスへの対応も果たしており、その分だけ感度を上げることになる。しかし、ノイズが増えた印象もなく、十分な明るさで再現していた。若干、白浮きしてはいたが、気になるほどのものではない。解像度が甘くなることもなく、後続していたトラックの様子もしっかり捉え、車体のロゴマークも鮮明に読み取ることができた。
ここまでの話だとデジタルミラー型は良いことずくめのようにも見えるが、特性上、使いにくいと感じる人がいるのも事実。それは光学式と違ってディスプレイ上に眼の焦点を合わせる必要があることだ。そのため、近いところに焦点を合わせにくくなっている中高年にとっては、前方を見てからデジタルミラーに目を移すと表示に焦点を合わせるまで時間がかかるのだ。若い人ならそんな苦労もないと思うが、もし取り付けて見るのがツライと思ったら、光学式の表示に切り替えて使うことをオススメする。
充実した安全運転支援システムにも注目
さて、最後にDRV-EM4800に搭載された安全運転支援システムについてお伝えしたい。本機には従来機でも装備されていた「後方急接近警告」、「前方衝突警告」、「車線逸脱警告」、「発信遅れ警告」に加え、「斜め後方障害物警告」が新たに追加された。正直言えば、「後方急接近警告」以外はどのドライブレコーダーでも目安程度の能力しか発揮できないでいた。特に車線逸脱警報は純正装着でも正確に反応するのは難しく、キャリブレーションも取れていない後付けのドライブレコーダーでその能力を発揮するのは難しかったのだ。
ただ、新たに搭載された「斜め後方障害物警告」を使ってみると、その実用性の高さを実感した。この機能は、走行中に死角となる斜め後方に接近する車両を検出して警告するもので、たとえば複数車線の道路を走行中、隣の車線で近づいてくる車両を検知するのに役立つ。本来は、近接のミリ波レーダーを使うことが多いが、コンパクト車ではセンサーのコストや設置場所の関係から搭載されることはほとんどなかった。
DRV-EM4800の「斜め後方障害物警告」はリアカメラを活用してその機能を発揮するために搭載された。そこで検知精度をチェックしてみたわけだが、助手席でチェックしている限り、すべての車両を検知。警告音を発すると共にアイコンをクルマが映らなくなるまで表示し続けたのだ。取扱説明書には「死角に存在する車両などの障害物を検知するものではありません」と記載されているが、実際は警告のタイミングも含め、十分に気付くレベルにあった。
もちろん、クルマが死角に入った時にそれを認知判断するのはドライバーの役目であるこは言うまでもない。しかし、人間は時としてミスを犯す。それをサポートするのがADASの役割であって、その意味でもDRV-EM4800の斜め後方障害物警告はドライバーの安心度を高めるのに効果をもたらす。
試乗体験を終えて、DRV-EM4800の機能の充実ぶりと能力の高さには大いに魅力を感じたわけだが、実売価格は5万円を超えるという。同タイプを純正で注文すれば10万円近くはするものだけに、それに比べればはるかに割安ではあるが、購入するとなればそれなりの勇気がいるのは確かだ。だからこそ購入するとなれば、純正のように仕上がりも含めた取り付けを行いたいところ。下手に自分で取り付けようとは思わず、専門業者にきちんと取り付けてもらうべき製品と言えるだろう。
●著者プロフィール
会田 肇(あいだ はじめ)1956年、茨城県生まれ。大学卒業後、自動車雑誌編集者を経てフリーとなる。自動車系メディアからモノ系メディアを中心にカーナビやドライブレコーダーなどを取材・執筆する一方で、先進運転支援システム(ADAS)などITS関連にも積極的に取材活動を展開。モーターショーやITS世界会議などイベント取材では海外にまで足を伸ばす。日本自動車ジャーナリスト協会会員。デジタルカメラグランプリ審査員。