バイオエタノールの利用促進と生産拡大をめざす「GBA」が設立された背景
欧州を筆頭に世界中で加速するEVシフト。だが2035年をリミットに純内燃機関車の新車販売が禁止されても、しばらくはガソリンや軽油を燃料とするクルマは残る。規制を導入する国々でもその施行前に販売された内燃機関車が寿命を迎えるまでに、まだかなりの時間を要するからだ。さらに新興国の多くの消費者にとっては、EVはまだ比較的高価で購入が難しいという事情もある。
一方では、世界154カ国/1地域が2050年にカーボンニュートラルの実現を表明している(もちろん日本も)。つまり、あと26年余で自動車に限らず二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量を差し引きゼロを実現しなければならないという喫緊の課題もある。
そこで注目を浴びているのが代替燃料のひとつであり、植物由来の「バイオ燃料(バイオマス燃料)」だ。上述の「GBA」は、G20の議長国を務めたインド、ブラジル、アメリカが主導し、19カ国と12の国際機関が参加する。バイオ燃料の生産と仕様の拡大を目指す組織だ。
カーボンニュートラルな燃料として改めて注目
ひと口にバイオ燃料といってもいくつか種類がある。自動車に用いられるのは、サトウキビやトウモロコシなど植物を原料としたバイオマスを発酵・蒸留して得られる「バイオエタノール」だ。酒類と同じ製法で製造される。内燃機関で燃焼させればCO2が排出されるが、原料となる植物はその成長過程でCO2を吸収するため結果的には相殺されるという理論に基づいている。
燃料としての需要を満たすには、広大な農地と原料となる作物の生育に適した気候条件が揃わなければならない。現在、ブラジルが圧倒的なシェア(2022年は3110万kL)を誇っているが、近年はインドなども生産を拡大、また米国でもかねてよりトウモロコシを原料とした生産が行われている。
バイオエタノールは、ほとんどの国でガソリンや軽油に混合して使用されている。混合割合に応じて「E10(エタノール混合比率10%)」、「E20(同20%)」などと表示されており、現状は「E10(同10%)」が主流。米国やフランスでは対策車両に限り「E85(同85%)」も認められている。ブラジルは通常は「E27(同27.5%)」だが、「E100(エタノールのみ)」も認可されている。ゆえに同国で走るクルマは、ガソリン100%でもエタノール100%でも走れる“フレックス燃料車”なのだ。
ちなみにF1でも2022年シーズンから燃料として「E10」の使用が義務付けられ(市販のE10とはブレンドが異なるが)、2026年には再エネ由来の100%カーボンニュートラル燃料への移行が発表されている。
国産車はエタノール混合ガソリン「E10」対応進む
実は日本でも最近の国産車はほとんどが「E10」に対応済みだ。燃料給油口に「バイオ混合ガソリン対応車(E10/ETBE22)」のステッカーが貼られているクルマは、燃料装置部品の耐腐食性・耐劣化性・燃料蒸発ガスの安全性などの対策がなされており、ガソリンとともに「E10」も使用できるようになっている。しかし、“バイオ混合ガソリン”を扱うガソリンスタンドは、まだほんの一握りに過ぎない。
ガソリンや軽油に代わる燃料を使った内燃機関には、既存インフラを有効活用して社会的な投資を緩やかに抑えるという利点もある。
日本では、2035年以降(東京都は2030年以降)にガソリンまたは軽油のみを動力源とするクルマの新車販売が禁止されるが、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車は対象外だ。つまり、ガソリンなど燃料の全需は長期的には下降傾向にはあるが、需要そのものは急激には下がらない可能性が高い。規制前のクルマがしばらくのあいだ一定数が存在すること、ハイブリッド車の新車販売比率が50%に迫る特異な市場だからである。
ここにエタノール混合ガソリン普及の可能性があるとみるがどうだろう。EVシフトによって日本ではガソリンスタンドのさらなる減少が懸念されるものの、一方で「E10」の普及が一気に進む可能性がある。ただし、日本ではバイオエタノールはほぼ100%輸入に頼っているため、ガソリンよりも単価が高い。その点は留意しておく必要があるだろう。