日本にモータリゼーションが訪れていた1970年代、世の中は高度経済成長に湧いていた。そんな時、ドライブのお供として必ず携行されていたのが道路地図だ。そんな道路地図の歴史をたどる企画展『クルマの地図 大集合!! 〜68年の軌跡〜』がゼンリンミュージアムにおいて5月20日より9月30日まで開催されている。(タイトル写真は世界で初めてのカーナビゲーションとして登場した「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」)

クルマとともに地図も進化

今となってはスマートフォンでいつでも地図を表示でき、目的地を設定すればその道順を案内してくれる。道路地図を開いた経験があるのはおそらく1990年代までにクルマを運転していた世代に限られるだろう。

それ以降はカーナビゲーションの登場によって、自分の位置が容易に把握できるようになったからだ。今回開催された企画展は、そうした時代の“クルマの地図”を一望できる貴重な機会だ。

開催場所はゼンリン本社があるリバーウォーク北九州(北九州市小倉区)の14階。ここでは通常、日本国内だけでなく世界中から収集された地図を使い、その歴史について順を追って観覧できる常設展が開かれている。

会場は大きく道路地図とカーナビゲーションの2つのセクションに分けられ、それぞれの歴史をたどる形で展示が行われている。

初の道路地図は1958年に誕生

今回の企画展「クルマの地図 大集合!! 〜68年の軌跡〜」は、その中の特別展として開催されているものだ。

まず入口から入って真っ先に目にするのが、今から68年前の1955年(昭和30年)に日本で最初に道路地図として使われた20万分の1地形図・地勢図だ。一見すると単なる国土地理院発行の地図にしか見えないが、それもそのはず、移動や物流の手段のほとんどを鉄道に頼っていた当時の日本には、他に道路を示す地図は存在していなかったのだ。

画像: 1955年に発行された道路地図は、20万分の1地形図・地勢図を使ったものだった。

1955年に発行された道路地図は、20万分の1地形図・地勢図を使ったものだった。

道路地図が初めて登場するのはそれから3年後の1958年のことだ。1958年と言えば、政府の国民車構想の下で“てんとう虫”こと「スバル360」が誕生した年。時代は高度経済成長期に入り、この頃から本格的なモータリーゼーションがスタートする。

一般ドライバーが増え始め、それまで業務用として使われていた道路地図がいよいよ一般向けに発行されたのもこの頃からだ。

画像: 1958年に初めて道路地図が誕生。建設省道路局が監修したもので、凡例には舗装路/砂利道の区別がしてある。

1958年に初めて道路地図が誕生。建設省道路局が監修したもので、凡例には舗装路/砂利道の区別がしてある。

しかし、当時はまだ未舗装の道路が多く、資料によれば国道などの幹線道路でも約8%程度の舗装率でしかなかったようだ。そのため、1958年に登場した道路地図には舗装路と未舗装路が表記されているのが興味深い。

1964年の東京オリンピックを前に様々な道路地図が登場

そして、1964年(昭和39年)に開催された東京オリンピックを迎えるにあたり、その前年には日本初の高速道路となる名神高速道路が一部区間で開通。そこから日本はいよいよ高速道路を使った本格的なハイウェイ時代に入っていく。20年後の1983年には中央自動車道や中国自動車道が開通し、その総延長距離は3435kmに上った。

画像: 1970年代に入ると、目的に応じたより詳細な道路地図が求められるようになる。

1970年代に入ると、目的に応じたより詳細な道路地図が求められるようになる。

この頃になるとドライブを家族で楽しむのが一般化し、数多くの地図会社が様々な地図を手掛けるようになる。地図会社もユーザーの移動ニーズに多様化に合わせ、様々な種類の道路地図を用意するようになり、会場ではアイデアに富んだ地図も展示されている。

さらに1990年代になるとカーナビゲーションが登場しているのにも関わらず、大ヒットを記録した昭文社の道路地図「スーパーマップル」が誕生。何が大ヒットの決め手になったのかもこの展示でわかる。

画像: 1990年代にカーナビが登場する中で大ヒットを記録した昭文社の道路地図「スーパーマップル」。きめ細かな縮尺とわかりやすい地図表示が好評だった。

1990年代にカーナビが登場する中で大ヒットを記録した昭文社の道路地図「スーパーマップル」。きめ細かな縮尺とわかりやすい地図表示が好評だった。

ホンダの特許無償公開でカーナビの今がある

一方のカーナビゲーションの展示では、1981年(昭和58年)に登場した「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」から大容量時代のカーナビ至る流れを、実機を交えながら見ることができる。

特に「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」はまだGPS衛星による測位がなかった時代に、ガスレートセンサーで車両の動きを検知して現在地を測位することに成功したものだ。

実はその技術は本来サスペンションに使うつもりで開発がスタートしたもので、開発途中でサスペンション用としては使い物にならず、やむを得ずカーナビゲーションへ転用されたという話を“生みの親”である田上勝俊氏に聞いたことがある。

そんな「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」だが、2017年にはIEEEによって“世界初の地図型自動車用ナビゲーションシステム”として認定されるという栄誉を得た。このシステムは1981年9月のモデルチェンジで2代目に進化したアコード(と初代ビガー)専用の用品として発表されたものでもある。

画像: 三菱電機の協力の下でゼンリンが地図データをデジタル化。この時初めて地図データがCD-ROMに収録された。

三菱電機の協力の下でゼンリンが地図データをデジタル化。この時初めて地図データがCD-ROMに収録された。

しかし、ホンダはこの時に使用していたセルロイド型の地図の使い勝手があまりに悪いことを実感し、地図データをデジタル化して光ディスク(CD-ROM等)に収録する特許を取得。これを無償公開したことでカーナビゲーションの歴史が本格的に動き出す。つまり、このホンダが特許の無償公開があったからこそ、カーナビの今があると言っても過言ではないのだ。

画像: カーナビの普及に大きく貢献したソニー「NVX-F10」。右側は目的に応じて選べたナビ研企画のナビソフト。

カーナビの普及に大きく貢献したソニー「NVX-F10」。右側は目的に応じて選べたナビ研企画のナビソフト。

GPSを使った世界初のカーナビも展示

その後は各社がCD-ROMを使った地図データを使い、GPS衛星による測位を組み合わせることでGPSカーナビが花開く。会場には三菱電機が東京モーターショーでコンセプトとして公開したGPSナビゲーションシステムのカタログや、ゼンリンが地図データを収録したCD-ROMの実物が展示されていた。

また、1990年にはGPS衛星を使った世界初のカーナビゲーションとして、ユーノスコスモに搭載された「GPSS」のカタログ展示や、パイオニアのサテライトクルージングシステム「カロッツェリア・AVIC-1」の実機も展示されているのも見逃せない。

企画展の開催期間は2023年5月20日(土)〜9月3日(日)まで、北九州市小倉区にあるゼンリンミュージアムで開催されている。

画像: 有料入場者全員に昭和45年に日地出版が発行した道路地図の表紙をデザイン化したチケットホルダーが配られる。

有料入場者全員に昭和45年に日地出版が発行した道路地図の表紙をデザイン化したチケットホルダーが配られる。

開催時間は10時〜17時(最終入館16時30分)で休館日は毎週月曜日(※祝日が重なった場合は翌平日に変更)。入場料は常設展示も含め、一般1000円。会期中は有料入館者全員に、昭和45年に日地出版が発行した道路地図の表紙をモチーフにしたオリジナルデザインのチケットホルダーが配られる。

●著者プロフィール
会田 肇(あいだ はじめ)1956年、茨城県生まれ。大学卒業後、自動車雑誌編集者を経てフリーとなる。自動車系メディアからモノ系メディアを中心にカーナビやドライブレコーダーなどを取材・執筆する一方で、先進運転支援システム(ADAS)などITS関連にも積極的に取材活動を展開。モーターショーやITS世界会議などイベント取材では海外にまで足を伸ばす。日本自動車ジャーナリスト協会会員。デジタルカメラグランプリ審査員。

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