自車位置の測位方法の違い
「車載カーナビ」と「カーナビ用アプリ」、この両者で決定的に違うのが、自車位置の測位方法である。
車載カーナビは自車位置を測位するにあたり、GPS衛星からの電波を受信すると共に、ジャイロセンサーでクルマの動きを検知し、その上で車両側からの車速パルスを得て移動量を計算する。
これに対してカーナビ用アプリでは、車両側からは一切情報を得ることはなく、GPS衛星からの電波のみで測位している。よく車載カーナビとスマホのカーナビアプリでは測位精度に差があると言われるが、ここにその差を生み出す理由があるのだ。
とはいえ、絶対位置を測位するのは両者ともGPS衛星からの電波を使っていることに違いはない。ジャイロセンサーや車速パルスはあくまでクルマの動きをカーナビ上に反映させるためのものであって、これらが絶対位置を計測することはできないからだ。自車位置の測位では同じなのにどうして、測位精度で両者に差が生まれるのだろうか。
GPSからの情報には誤差
実はこのGPS衛星から、何が送信されているのかは意外に知られていない。「GPS衛星が位置情報を送信している」との話をよく耳にするが、これは誤りだ。GPS衛星はあくまで衛星の位置情報と高精度な時刻情報を電波に乗せて送信しているに過ぎない。
この電波を最低でも3〜4個の衛星から受信することにより三角法で現在位置を計算し、このデータを元に地図上に自車位置を表示するのがカーナビの役割なのだ。
やっかいなのはこのGPSからの情報が電波で送られてきていることだ。この電波を直接受信できているなら問題は発生しないのだが、電波は特性上、建物など構造物があればそこで反射の影響を受けやすい。
つまり、ここでGPSからダイレクトに受信した電波との間で時差が生まれ、カーナビは正しい計算ができなくなってしまうのだ。これをマルチパスと呼ぶ。さらに電波であるが故に送電線等の影響を受けることもある。これらが原因となりGPSで受信することによる誤差が生まれてしまうのだ。
GPS頼りのアプリのウイークポイント
一方、カーナビでは地図上の道路に半ば強制的に自車位置をポジションにする「マップマッチング」という技術も使われている。これを使うことでGPSによって多少の誤差が発生しても、少なくとも道路上にいるという状況を作り出すことに成功している。
さらに車載カーナビでは、GPSは絶対位置を測位する時に使うものの、多くはジャイロセンサーと車速パルスを使った自律航法を基本としている。これにより、GPSによるマルチパスの影響を最小限にとどめようというわけだ。
そして、トンネルや地下駐車場といった場所に入ると、GPSからの電波が途絶えることになる。そのため、GPSだけに頼るカーナビ用アプリは、この電波が途絶えた途端に測位不能となってしまう。
アプリによっては、トンネル内に入った時と同じ速度でそのまま走っていると仮定して推測表示するものもあるが、当然これは正確なものではない。それも一定時間を過ぎると停止してしまうため、山手トンネルなど距離が長くなるとカーナビとして機能しなくなってしまうのだ。
それに対して車速パルスを併用する車載カーナビでは、GPSからの電波が途絶えても自律航法が機能するため測位は継続される。
もちろん、「トンネル内では分岐はほとんどないから停止しても問題ない」という意見もあるだろう。確かにトンネル内ならそうかもしれないが、これが地下駐車場内で測位を停止してしまうと出口で進路を見失ったまま出発しなければいけなくなってしまう。
そのため、少なくともGPSを受信するまで出口付近で見当を付けて走行することになりがちだ。つまり、車載カーナビの常に正しい位置を測位できることが、とくに初めての土地では大きな安心感にもつながるというわけだ。
ルートガイドの拡大図は車載カーナビに軍配
また、車載カーナビはルートガイドでも軍配が上がる。それはアプリ全体のデータサイズとも関係している。車載カーナビの場合、地図データは基本的に本体内にすべてが収録されている。
しかし、カーナビ用アプリの場合は基本的に、その都度必要なデータをダウンロードして使っている(NAVITIMEはダウンロード型もあり)。そのため、ルートガイドで使用するデータもできる限り小さい方が都合がいい。その結果、たとえば交差点での拡大図は、表示したとしても一部に限られるのが基本となっている。
それでも最近は車線ガイドや分岐点までの距離を表示するため、カーナビ用アプリでもそれほど困らなくなった。ただ、通り名があまり整備されていない日本では、分岐点として交差点での情報が極めて重要なことに変わりはない。その意味でも充実した交差点ガイドが案内される車載カーナビの方が安心度は高いと言っていいだろう。
目的地検索はアプリの得意技
では車載カーナビがすべてにおいて優れているかと言えば、そうとも限らない。それは目的地検索もそのひとつだ。
車載カーナビの多くは、外部サーバーとつながっていないスタンドアローン型がほとんどだ。最近でこそ純正ナビや一部市販ナビで通信機能を備えるタイプも登場しているが、それはまだ少数派だ。
目的地を探す場合はカーナビ内に収録されたデータから探すことになる。ここで問題となるのが、そのデータが最新ではないということだ。当然、新たにオープンした施設は探せない。さらにメニューから入って、階層をいくつかたどっていく必要がある。つまり、ひとつの目的地を探す手間がかかるのだ。
それに対してカーナビ用アプリでは、スマホ上で目的地を探すわけだから、通信によってサーバーとつながっているのが前提だ。サーバーには常に最新版に更新されており、目的地の情報だけでなく、道路状況も最新版で利用することが可能だ。
目的地を探す際も、思いついたキーワードを入力すれば、それに関連する候補がリストアップされる。中には音声入力に対応しているアプリもあり、そうなれば効率よく目的地までのルートが探し出せることになる。
大画面化は両者共通のトレンド
そうした中、日本で車載カーナビなどでトレンドとなっているのが大画面化だ。家庭用TVでも同じことが言えるが、一度大きな画面を見てしまうと小さい画面には戻れない。これは車載カーナビでも同じで、最近ではスマホと組み合わせ使うディスプレイオーディオでもその傾向が顕著になってきた。
そのため、以前はカーナビ用アプリはスマホの画面で展開するのが普通だったが、ここへ来て車載カーナビも、カーナビ用アプリでも大画面化という観点で対応は可能という状態になってきた。
そして、今後の話となってしまうが、実はUSB端子を介して車速パルスをディスプレイオーディオに反映させようとの動きが出てきている。すでに業務用途でのディスプレイオーディオではこれに対応した製品が発売されており、これが実現すればスマホを使ったカーナビ用アプリでもGPSの受信状況だけに頼らない安定した測位が可能となる。
それがいつコンシューマ製品に正式に反映されるかは定かではないが、そうした動きがカーナビ用アプリの弱点克服につながってくるのかもしれない。
●著者プロフィール
会田 肇(あいだ はじめ)1956年、茨城県生まれ。大学卒業後、自動車雑誌編集者を経てフリーとなる。自動車系メディアからモノ系メディアを中心にカーナビやドライブレコーダーなどを取材・執筆する一方で、先進運転支援システム(ADAS)などITS関連にも積極的に取材活動を展開。モーターショーやITS世界会議などイベント取材では海外にまで足を伸ばす。日本自動車ジャーナリスト協会会員。デジタルカメラグランプリ審査員。