欧州、日本、インドネシアで発売される予定の、初のホンダ製電動スクーターであるEM1 e:(イーエムワン イー)」。インドネシア現地メディアが報じるところによると「インドネシア国際モーターショー2023」会場にて、PTアストラ ホンダの関係者がジョコ・ウィドド大統領の質問に答えるかたちで、インドネシア市場での「EM1 e:」のおおよその価格を明らかにしたという。

まだわからないことが多い、ホンダ初のコンシューマー向け電動スクーター

インドネシアはアジア圏で最も成長している国のひとつであり、2040年代にはGDPで日本やインドを追い抜くとも予想されるくらい勢いがある国だ。そんなインドネシアの中心地ジャカルタ近郊で、2月に「インドネシア国際モーターショー(IIMS)2023」が開催された。

このショーにおいて数多くの2輪関連展示のなかで観衆の視線を集めたのが、ホンダが今夏から欧州市場での販売をアナウンスしている電動スクーター「EM1 e:」である(EMはエレクトリック モペッドの意味)。交換式バッテリー=Honda Mobile Power Pack e(以下HMPPe)を搭載する、原付クラスの電動スクーターであるEM1 e:が、2023年中には日本やインドネシアでも発売予定なのは各メディアで既報だが、依然その価格や、詳細なスペックなどの情報は明らかにされてはいない。

EM1 e:の母体となるのは、中国などで販売されている五羊ホンダの電動スクーター「U-GO」だ。U-GOはモーター定格出力が1,200W、そして800Wの2仕様がラインアップされているが、おそらくEM1 e:は1,200W仕様になっていると予想されている。

画像: U-GOは、Wuyang-Honda=五羊-本田摩托(広州)有限公司が2021年7月に発表した電動スクーター。HMPPeではなく、アルミのカバーで覆われた独自の交換式バッテリーを、足を置くフロア部内に収納している。なおスタイリングのテーマは「シンプル&クリーン」だ。 www.wuyang-honda.com

U-GOは、Wuyang-Honda=五羊-本田摩托(広州)有限公司が2021年7月に発表した電動スクーター。HMPPeではなく、アルミのカバーで覆われた独自の交換式バッテリーを、足を置くフロア部内に収納している。なおスタイリングのテーマは「シンプル&クリーン」だ。

www.wuyang-honda.com

U-GOの中国での価格は800W仕様が7499元≒14万6,000円、1200W版が7999元≒15万6000円と設定されている。U-GOとEM1 e:は外観こそ近似しているが、交換式バッテリーの搭載方法が異なるなど電装系などが大きく異なっている。そのためU-GOの価格から、EM1 e:の価格を推察するのは難しい。

ただ、中国の緩めのレギュレーションに合わせて設計されたU-GOよりも、厳しい各国のレギュレーション対応を求められるEM1 e:はその対応コストがかさむため、U-GOのように20万円以下で販売されることはまずありえないだろう。

明かされた価格は2500万ルピア以上・・・日本円で約23万円以上!?

インドネシアのメディア、detikotoの報道には、気になるEM1 e:の価格について触れられていた。IIMS2023会場にはインドネシアの大統領も来場し、ホンダ(PTアストラ ホンダ モーター、以下AHM)の展示ブースを訪れている。現在、急速な経済成長につきものともいえる交通渋滞と公害問題にインドネシアは直面しており、ジャカルタ首都圏はPM2.5濃度で世界6位という不名誉な状況におかれているそうだ。これら問題解決の責任者たる大統領としても、業界最大手ブランドのホンダが生み出した電動スクーターに強い興味を惹かれたのかもしれない。

ホンダとインドネシア有数のコングロマリットであるPT アストラ インターナショナルは、2001年1月に対等出資の合弁会社であるAHMを設立。その前身であるPTフェデラル モーターとともに、ホンダは1972年から長期間にわたってインドネシアの2輪需要に応えてきた。報道によると大統領は会場にいたAHMの人に、ズバリEM1 e:の価格をたずねたという。

IIMS2023のPT アストラ ホンダ モーター(AHM)の展示ブース。主力商品の160ccクラスのスクーターの展示がメインだが、奥にはEM1 e:が、HMPPeの交換機とともに展示されているのがわかる。

www.astra-honda.com

一般論として、公式に発売日が明らかにされていない製品の価格を明らかにすることは、まずありえないこと、というのが日本社会の常識だろう。しかしAHMのスタッフは、2500万ルピア以上≒23万円以上と大統領の質問に答えたというから驚かされる。大統領の問いだから答えたのか、それとも誰にでも答えるのか、は定かではないが・・・。

ともあれ2500万ルピア以上と「以上」という言葉を使った点から、まだインドネシア市場でのEM1 e:の価格は本決まりではないことがうかがえる。現在の技術ではリチウムイオンバッテリーは大幅なコストダウンを図ることが難しく、電動スクーターがある程度高価になるのはやむを得ないといえよう(交換式バッテリーを"サブスクリプション"化することが、車両価格を下げる策としては有効だ)。

日本国内ではバッテリーリサイクルの社会的責任の観点から、現在ホンダは2&3輪電動スクーターをバッテリー回収に協力できる法人のみに限って販売している。同様にAHMもインドネシアで法人向けの電動スクーターのビジネスを展開しているが、コンシューマー向け電動スクーターの販売には、その経験で得たノウハウが活用されることになるのだろう。

世界3位の大市場で、ホンダ対Gogoroの"電動対決"が勃発!?

2022年初頭の時点でインドネシアは1億1,100万台の2輪車を保有しており、この数字は同地が世界せ3番目に大きな2輪市場であることを示している。2030年までに温室効果ガス(GHG)を43%削減、2060年までにゼロにすることをインドネシア政府は目標に掲げており、今後インドネシア市場では電動化の流れが加速すると予想されている。

画像: 今年の3月、東京ビックサイトで開催された「第50回 東京モーターサイクルショー」で展示されたEM1 e:の1台は、センタースタンドを立てて、後輪を浮かせた状態になっていた。これは来場者にスロットルをひねって後輪を動かしてもらい、電動スクーターの静粛性を体験してもらう試みだ。こういう屋内展示を可能にするのも、排ガスゼロの電動車ならではの利点といえるだろう。

今年の3月、東京ビックサイトで開催された「第50回 東京モーターサイクルショー」で展示されたEM1 e:の1台は、センタースタンドを立てて、後輪を浮かせた状態になっていた。これは来場者にスロットルをひねって後輪を動かしてもらい、電動スクーターの静粛性を体験してもらう試みだ。こういう屋内展示を可能にするのも、排ガスゼロの電動車ならではの利点といえるだろう。

バッテリー交換式電動スクーターのプラットフォームをいち早く確立させ、斯界のリーディングカンパニーの位置にいる台湾のGogoroは、2022年1月にフォックスコン、インドネシア バッテリー コーポレーション(IBC)、そしてインディカ エナジーとともに、インドネシア市場でEVエコシステムを構築するためのパートナーシップを結んだことを発表している。

そしてすでに2021年11月から、GogoroはインドネシアのGotoグループと組んで電化したラスト ワン マイル デリバリーのビジネス戦略をスタートしている。巨大市場における電化戦略の取り組みを、ライバルたちよりも早く着手することで、Gogoroはシェアの拡大を目指している。

ホンダとAHMが今年のどのタイミングでインドネシア市場にEM1 e:を販売するのか、そして交換式バッテリーのステーション網をどのようにして彼の地に構築するのかは不明だが、電動車の雄Gogoroと2輪界の巨人ホンダがインドネシア市場で今後どのような"戦い"を展開するのは、非常に興味深い。これからの日本市場でのEM1 e:販売戦略同様、注目したいトピックである。

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