2026年9月30日、日本財団は、水素専焼エンジンを搭載した内航タンカー「輝光丸(きこうまる)」が、大阪湾においてカーボンニュートラル実証航行に成功したと発表した。日本財団調べ(2026年9月時点)によると、水素専焼エンジンを搭載した船舶の開発と実証航行は世界初であり、2050年の内航海運カーボンニュートラルに向けた大きな一歩となる。

文:スマートモビリティJP編集部
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水素燃料比率95%強を実現した水素専焼エンジン船

日本財団は2022年より内航海運の脱炭素化を目指し、3つのコンソーシアムによる船舶開発を推進してきた。今回の成果は、そのうちヤンマーパワーソリューションが代表を務める「舶用水素4ストロークエンジン・水素エンジン対応大型内航タンカー開発コンソーシアム」によるものである。同コンソーシアムでは、ヤンマーパワーソリューションが水素専焼エンジンをはじめとする水素関連機器の開発を担い、輝光丸の船主・運航者である上野トランステック株式会社が船舶のレトロフィット改造と水素燃料対応の船員教育を担当した。

画像: 水素専焼エンジン搭載船「輝光丸」。(提供:日本財団)

水素専焼エンジン搭載船「輝光丸」。(提供:日本財団)

輝光丸は、2025年に福岡造船長崎工場で竣工した総トン数約4500トン、全長104.93m、積載量約5000kℓの油タンカーだ。既存の船に水素対応設備を後付けするレトロフィット方式を採用しており、世界最大級の水素燃料船と位置付けられている。

デッキ上には水素エンジン発電機コンテナと水素タンクコンテナを設置。水素専焼エンジン発電機とバッテリの電力で推進電動機を回す電気推進方式を採用している。

画像: 水素専焼エンジンを搭載したコンテナ(左)と水素を貯蔵するコンテナ(右)(提供:日本財団)

水素専焼エンジンを搭載したコンテナ(左)と水素を貯蔵するコンテナ(右)(提供:日本財団)

搭載エンジンの「6AYEL-H2」(機関出力490kW、発電機出力450kW)は、舶用ディーゼルエンジンをベースとしたパイロット着火方式の電子制御式水素専焼エンジンだ。着火用に少量のバイオ燃料(HVO、全エネルギーの5%弱)を用いる一方、海上試験では水素燃料比率95%強という世界最高レベルの水素燃焼を達成した。

画像: 輝光丸では、水素専焼エンジンと発電機を2セット搭載している。(提供:日本財団)

輝光丸では、水素専焼エンジンと発電機を2セット搭載している。(提供:日本財団)

水素は着火しやすく漏れやすいうえに金属を脆くさせる厄介な性質を持つ。そのため、燃焼制御技術、安全対策技術、材料評価技術という3つの技術開発項目への対応が不可欠であった。

カーボンニュートラル航行に成功、高付加価値船で造船業再生へ

実証航行は2026年9月25日に行われた。神戸港で移動式水素ステーションから水素を補給するバンカリングを実施したうえで、大阪湾を約2時間、約33km航行した。出入港時は通常のディーゼル発電機を使い、航行中は水素専焼エンジンで運航している。

画像: カーボンニュートラル航行を行う様子。(提供:日本財団)

カーボンニュートラル航行を行う様子。(提供:日本財団)

この航行では、従来の化石燃料を使用した場合と比べ、約1.2トンのCO2排出削減を達成した。本実証の意義は大きく3点に整理できる。

第一に、水素専焼エンジンを搭載した船舶の開発・実証航行を世界で初めて達成し、日本の水素技術・エンジン技術の高さを示した点である。

第二に、外航・大型船が中心であった国内のゼロエミッション船開発に対し、これまで未実施であった内航船分野での実用化の可能性を具体的に示した点である。内航海運は2022年度時点で年間1021万トンのCO2を排出しており、その脱炭素化は日本全体のカーボンニュートラル実現に不可欠な課題である。

第三に、舶用水素専焼エンジンの連続運航時間として世界最長を記録し、一般商船(貨物船)への水素燃料導入の可能性を示した点である。

IMO(国際海事機関)ではネットゼロ・フレームワークの議論が進み、ゼロエミッション船にインセンティブが与えられる方針だ。高付加価値船へのシフトは、日本の造船・海事産業の競争力強化にもつながる。

今後の展望

日本財団のゼロエミッション船プロジェクトは、2022年1月の事業開始から5年間で約122億円規模の事業として進められており、すでに96億円の助成が決定している。プロジェクトは段階的な目標を掲げており、2026年までに世界初の水素専焼エンジン搭載ゼロエミッション船を実現するというステージ1の目標は達成された。

今後はステージ1.5として2030年頃の本格的実用化に向けた課題調査と追加支援策の検討が進められ、最終的には2050年までの内航船全体のゼロエミッション化を目指すとしている。

ヤンマーパワーソリューションは、水素混合気のみを燃焼させる火花点火式の「究極のゼロエミッションエンジン」の開発も並行して進めており、2029年に陸上試験を目標に開発を進めている。また、別のコンソーシアム(ジャパンハイドロが代表)による水素専焼中速エンジン搭載のカーフェリー船の実証も、2026年度中の実施が予定されている。

一方で、社会実装に向けては水素エンジンの開発にとどまらない課題がある。商品開発の推進に加え、供給インフラの整備、舶用機器の対応拡充、グリーン水素の増産といった周辺環境の整備が不可欠だ。

日本財団は今後も、異分野を含む22社の事業体のハブとして関係者を結びつけ、国際標準化の主導も視野に入れながら、造船・海事産業の競争力強化とカーボンニュートラル社会の実現を目指す方針である。

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