フォーミュラEが東京で「ナイトレース」を強行するしたたかなビジネス戦略
2026年、ABB FIAフォーミュラE世界選手権の東京大会(Tokyo E-Prix)は、これまでのデイタイム開催から一転し、「ナイトレース」としての開催に踏み切った。東京湾岸エリアの夜闇を、甲高いモーター音とLEDの光の帯が切り裂くシーンが展開される。
モータースポーツファンのみならず、都市インフラやモビリティビジネスにかかわる多くの人がこの決定に注目することだろう。電力を極限まで管理し、環境負荷の低減を至上命題とするこの「電気のレース」において、コース全体を人工照明で照らし出すナイトレースは、一見すると矛盾を抱えているように映る。
しかし、FIA(国際自動車連盟)とフォーミュラEオペレーションズ(FEO)、そして開催都市である東京都が、単なる「見た目の派手さ」だけでこの方針転換を承認したわけではない。そこには、両者の思惑や再生エネルギーインフラの巨大な実証実験という真の狙いが隠されている。
走るスマートシティの実験室「フォーミュラE」
フォーミュラEは、2014年にFIAによって設立された、100%電気のみで走る世界最高峰のフォーミュラカーレースである。F1が「最高速と空力の極限」を追求するモータースポーツの頂点であるならば、フォーミュラEは「都市におけるサステナビリティと電気モビリティの未来」を証明する実証実験の場という性格が強い。

2日間で3万人が来場した2025年のTokyo E-Prix。母国凱旋の日産が悲願のTokyo E-PrixGP優勝を果たし、記念すべき大会となった。日本メーカーの大活躍に会場は盛り上がりを見せた。
その最大の特長は、世界主要都市の「公道」を完全に閉鎖してレースを行う点にある。排出ガスを出さず、騒音レベルが極めて低いEVだからこそ従来のサーキットではなく、生活圏である大都市の中心部(ロンドン、モナコ、そして東京)の公道をサーキットに変えることができるのだ。特にモータースポーツ後進国である日本では、人の目に入りやすいエリアで同カテゴリーを開催する価値は大きい。
現在使用されている第3世代マシン「Gen3 Evo」は、最高速320km/hに達し、レース中に使用するエネルギーの約40%をみずからのブレーキ(回生ブレーキ)によって発電・回収する。シャシやバッテリーなどの主要ハードウエアはワンメイクで、自動車メーカーが競い合うのは、限られた電力をいかに効率よく使い、いかに速く走らせるかという「ソフトウエア(エネルギーマネジメントアルゴリズム)」の技術である。
単なる「エコなレース」ではない。都市型モビリティの限界を拡張するための、最先端技術のショーケース。それがフォーミュラEの正体だ。

