航空燃料の脱炭素化に必要不可欠なSAF
現在、カーボンニュートラルを実現する取り組みとして、自動車や船舶など交通機関の電化が進められている。航空業界においても同様の動きは活発化しており、国際民間航空機関(ICAO)は、2050年までに航空機のCO2排出量を実質ゼロにする長期目標を掲げている。
ただし、上空を飛行するモビリティであることから、燃料のエネルギー密度への要求水準が他の交通機関よりもシビアだ。
たしかに航続距離の短い小型のプロペラ機であれば、モーター&バッテリーに置き換えての電化運航もできる可能性はある。一方で、ジェット機のような中・長距離飛行を行うには、現在主流のリチウムイオンバッテリーでも、エネルギー密度が不十分となってしまうため、結局は石油代替燃料を利用しなければならない。
そこで、従来から使用されてきた石油由来の航空燃料に代わるものとして、持続可能な航空燃料(SAF)が注目されている。SAFは、まだ研究段階で製造コストも高く、現状では世界のジェット燃料生産量のうちわずか0.3%(2024年、IATA推計値)しか生産されていないものの、今後の需要を見越して各社が開発に挑戦、さらに日本政府が国内航空会社に向けてSAF購入支援を行う方針も示している。
IHIは合成燃料の先行者ゆえに認証を受ける必要がある
SAFには、原料や製造方法の違いによっていくつかの類型が存在しており、ジェット燃料として利用するには、国際機関の米国試験材料協会(ASTM)が定める規格に適合することが求められる。
現在ASTMの認証を受けているSAFの製造プロセスは8種類あり、すでに認証を得ているプロセスであればそれにのっとって製造すれば、ジェット燃料として供給可能だ。
その製造プロセスのうちほとんどが廃食油や穀物から製造されるバイオエタノールなど、バイオマス由来の原料によるもので、CO2由来のプロセスで認証を受けているものはまだ存在しない。
IHIは、SAFの需要拡大にともなうバイオマス資源の不足を見越し、どこでも手に入るCO2と水素を原料に、触媒を用いて合成するプロセスの開発に取り組んでおり、同製造プロセスで先行しているからこそ、認証という壁を自力で乗り越える必要がある。
2022年から、シンガポール科学技術研究庁傘下の研究機関ISCEと共同で、CO2と水素を直接変換してSAF原料である液体炭化水素を合成する触媒の開発を進めてきた。
この触媒は、これまでのラボ試験において、SAFの原料となる炭素数5以上の液体炭化水素の収率で26%と世界トップレベルの性能であることが確認されているという。
※収率:反応器に投入したCO2に含まれる炭素のうち、目的の炭化水素に変換された炭素の割合
続いて2025年9月からは、ISCE内に設置した試験装置を用いて、液体炭化水素の合成試験を実施。改質処理を施したサンプルは、米国ワシントン州立大学において特性評価が行われ、航空機用代替ジェット燃料として優れた特性を持つことが示された。

シンガポールISCE2内に設置した試験装置。
同大学バイオプロダクト科学・工学研究所のジョシュア・ヘイン所長は、IHIが提供した燃料サンプルについて、「初期段階のSAF候補に求められるすべての試験特性を満たし、またはそれを上回り、とくに炭化水素組成と低温流動特性が良好である」と評している。
今回の実験結果では、IHIが合成したSAFが寒冷環境での航空機運用に必要な基準を満たし、密度や燃費特性においても優れていることが示され、CO2と水素を炭化水素に直接変換する新たな合成法の商用化に向け、ASTM認証取得への重要な一歩となった。
※ASTM認証:製造されたSAFをジェット燃料として利用するには、ASTM Internationalが定める航空機用代替ジェット燃料に関する規格(ASTM D7566)の認証を取得する必要がある。
IHIのロードマップによると、2030年の商用プラント稼働が目標とされている。先行者のないCO2と水素を原料としたSAFの製造を軌道に乗せられるのか、今後の展開にも注目が集まる。
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