安全に行動範囲を広げる四輪モビリティの開発
高齢者に向けた免許不要の四輪モビリティといえば従来からシニアカーがあるが、原則として歩道走行に限定され、最高速も6km/hに制限されるなど、数km以上の移動手段としては限界と課題がある。
たとえば、実際に長年「セニアカー」を開発・販売してきたスズキはこうした課題をクリアするため特定小型原付に着目し、四輪の「SUZU-RIDE」と「SUZU-CARGO」を開発してジャパンモビリティショー2023に参考出品するなど、多様化する高齢化社会に向けた新たなモビリティを模索する動きは活発化している。
そもそも、幅広い世代で移動の自由を実現することを目的に始まった特定小型原付だが、現在主流のキックボードや自転車のタイプをシニア層が気軽に、そして安全に利用するには高いハードルがある。そんな中、走行安定性を重視した四輪タイプは、高齢者やその家族から開発リクエストが届くほど注目されているという。
特定小型原付の規格は前照灯や方向指示器など保安部品の装着、最高速20km/hや定格出力0.6kW以下といったパワートレーンの制約はあるものの、比較的自由度の高い設計ができる規格。ただ、四輪タイプの開発で課題になるのはボディサイズにまつわる仕様で、普通自転車の型式認定と同じく全長190cm×全幅60cm以内に制限されていることだ。
走行安定性を担保する全幅が狭いことは、車体が横方向へ大きく傾くような強い傾斜や段差で走行姿勢を不安定にさせやすく、また転倒のリスクもはらんでいる。
走行安全性を高めるリーンステア制御
そこで、さまざまなタイプの小型モビリティを開発してきたglafitは、ニーズと課題をクリアする四輪特定小型原付の開発をスタート、2024年7月にプロトタイプによる実証実験を開始したのだ。
最大の特長は「リーンステア制御」が導入されていること。このシステム、glafitと共同開発契約を締結したアイシンによって提供されている技術で、車軸の傾きを連続可変させてボディの水平を確保するというもの。段差や傾斜による20度程度の車体の傾きはカバーできる。
加えて、車速と舵角をモニタリングして制御するため走行中にカーブでハンドルを操作すれば、自動的にコーナー内側に傾斜して安定感を高めてくれるので、試乗するとまるで二輪車を運転するように右へ左へ車体を傾けながらスラロームを抜けるような走り方も難なくできてしまう。
運転者みずから体重移動するのではなく、ハンドル操作だけでボディを傾けてくれるので、クルマに身を任せたコーナリングをすることができる。バイクや自転車に乗り慣れた人だけではなく、多くの人が自然に乗りこなせるモビリティの可能性を感じさせる。
ただ、この試乗車はまだプロトタイプの第1号。こうした開発段階のモデルを使用した試乗会は珍しいのだが、ターゲットユーザーによるニーズや試乗後の要望を開発に活かすためにあえて開催したのだという。こうした要素を検討・導入しながらリーンステア制御の調整はもちろん、デザインや操作系統も今後変化していく可能性がある。今後の進化、進展が気になる存在だ。