来庁不要な自治体サービスが仮想空間上で展開される
国内の各地域で、少子高齢化や大都市圏への人口集中による人口減少、労働力不足が公共サービスの維持を困難にしているとの懸念を受け、デジタル技術の活用による最適化と効率化が求められている。
大日本印刷は、こうしたニーズに対して年齢、性別、言語などの条件に関係なく、リアルとバーチャルの空間を行き来して新しい体験と経済圏を創出する「XRコミュニケーション」事業を2021年から展開しており、教育分野でのメタバースの活用や地域の公共施設などと連動したメタバースの構築などを通じて、自治体の地域活性化を支援してきた。
2024年2月には、三重県桑名市と共に「メタバース役所」で「電子申請手続きの総合窓口」、「各種相談業務」、「市民交流の場」を提供する1カ月間の実証実験を実施し、6月からは東京都江戸川区でも先行運用を開始している。
今回発表された「メタバース役所」サービスでは、こうした先行実証で得られた運用ノウハウをもとに、複数の自治体の連携により共通する課題の解決につなげるため、「共同利用モデル」のサービスが開始されることになった。
主な特徴は、複数自治体による連携と住民サービスの向上、災害時の事業継続計画(BCP)の拡充と住民コミュニティの維持・再生、経済的負担と運用負荷の軽減の3つである。
1.複数自治体による連携と住民サービスの向上
複数の自治体が「メタバース役所」をプラットフォームとして共有することで、相互の連携強化による住民サービスの質が向上する。
(例)子育てや介護、不登校等の課題に連携して取り組むことで、より住民にとって効果的な施策を検討・実施可能にする。
2.災害時の事業継続計画(BCP)の拡充と住民コミュニティの維持・再生
自然災害をはじめとする緊急時にも、複数の自治体同士で支援し合う強固なBCPを構築する。
(例)特定の被災地で物理的な役所の機能が滞った際に、連携先の自治体の「メタバース役所」で対応できるほか、復旧・復興時の住民コミュニティの維持・再生などに活用できる。
3.経済的負担と運用負荷の軽減
住民からの問い合わせに対応する業務等を標準化することで、複数自治体による共同利用が可能に。これにより、各自治体はサービス利用料を抑えながら、場所や時間の制約を減らした形で、行政サービスを住民に提供できる。
未来の役所は対面+メタバースのハイブリッドが常識になる
大日本印刷は「メタバース役所」の運用と関連サービスを含め、2028年度に10億円の売上を目指し、自治体のDX推進をさらに支援するため利用者ニーズに対応し、サービスの機能を継続的に改善・強化していく方針だという。
今はまだ導入地域も対象となる業務も少ないが、今後全国の自治体で導入され、対象サービスも広がっていくことになれば、役所=対面という従来の常識は過去のものとなるだろう。
役所の対応が対面+メタバースのハイブリッドとなることで、自治体サービスのあり方が大きく変化していくターニングポイントになるかもしれない。今後の「メタバース役所」の展開に注目だ。
【メタバース役所 サービス概要】
○共同利用モデル:参加自治体に共通の空間・サービスを提供
・価格:初期費用110万円、月額68万7500円
・最大同時接続数:50人
○個別利用モデル:共同利用モデルの基本機能に加え、自治体ごとにカスタマイズした空間・サービスを提供
・価格:都度見積もり
・最大同時接続数:1000人