英ケンブリッジ大学発祥のスタートアップ「Nyobolt(ナイオボルト)」が次世代急速充電バッテリー技術を開発、従来の半分以下の時間でSOC10%〜80%(充電量10%→80%)を達成したと発表した(2024年6月28日)。すでに自動車メーカー8社と高性能EVへの採用を協議中だという。(タイトル写真は次世代急速バッテリー技術を搭載したNyobolt社のテスト車両)

液系リチウムイオンには新たな可能性がある

全固体電池やナトリウムイオン電池(すでに一部で実用化)など、次世代電池登場への期待が高まるなか、現在主流の液系リチウムイオン電池を使いながら充電所要時間を大幅に短縮、さらに電池寿命を延ばす英国ナイオボルト社の技術が業界筋で注目を集めている。

現在でもEVの充電に要する時間は、日々短縮されている。800Vアーキテクチャーを採用するEVが続々登場し、併せて350kWを超える高出力・超急速充電器の設置も加速しつつある。すでに一部の中国製EVは、11分台前半でSOC10%〜80%を実現している。

画像: 中国Cherry系プレミアムブランドEXCEEDの「ステラET」RWDモデルはSOC10%〜80%を11分で実現。

中国Cherry系プレミアムブランドEXCEEDの「ステラET」RWDモデルはSOC10%〜80%を11分で実現。

もっとも、現状では15分でSOC10%〜80%を実現できればかなり優秀な部類に入る。理論的にはさらに短縮することも可能だが、液系リチウムイオン電池では、電流をむやみにスピードアップすることはできない。正極から負極に流れる際にイオンの渋滞が起きてしまい、負極の表面にイオンが固着するいわゆるリチウムプレーティングが発生してバッテリーの性能劣化を招いてしまうからだ。

ゆえに、現在のEVにはピーク充電レベルをコントロールするプログラムが搭載されている。つまり、現在主流の液系リチウムイオンバッテリーは技術的な限界点に達しつつあり、ブレイクスルーは全固体電池やナトリウムイオン電池など次世代バッテリーの登場を待つしかない、というのが大方の予測だった。

コンセプト発表からわずか12カ月で開発終了

一方、2024年3月には、ボルボが英「Breathe(ブリーズ)」が開発したアルゴリズム対応充電ソフトウェアの採用計画を発表。ボルボの次世代車に搭載されるバッテリー管理プラットフォームにブリーズ社の開発したソフトウェアを組み込むことで、エネルギー密度や航続距離はそのままに、充電速度を最大30%短縮できるとしている。リチウムイオンバッテリーのポテンシャルをフルに引き出し、併せてその長寿命化を図るソフト主体のアプローチだ。

ブリーズ社と同じ英国を拠点とするナイオボルト社は、ソフトだけでなくバッテリーの正・負極材に次世代素材を用いて、超低インピーダンスセル、統合パワーエレクトロニクス、ソフトウェア制御などをトータルで開発することで、電力密度の高いバッテリーと充放電システムを一括して開発することに成功したという。

驚くべきはその開発速度。技術コンセプトの発表からわずか12カ月で、超急速充電バッテリーの試作から制御ソフトの開発まで終えてしまった。開発の途中では、第三者機関により4000回以上に及ぶ急速充放電実験を行い、60万マイル(およそ96万6000kmの実走行に相当)でも、初期性能比で80%以上の充電容量が維持されていることが確認されている。

EV充電時間は間もなくガソリン給油時間と並ぶ!?

6月から始まった車載テストには、50アンペア/35kWhのバッテリーを搭載した専用開発のプロトタイプEVが使用された。車両設計とデザインを担当したのは、ジャガーやアストンマーティンで辣腕をふるったイアン・カラム氏が率いる英CALLUM(カラム)社。実車のデザインは、ロータス・エリーゼをデザインしたジュリアン・トムソン氏だ。トムソン氏は、エリーゼのデザインを元に既存のプラットフォーム設計でも電動化できることをアピールしている。

画像: ロータス・エリーゼがベースのテスト車両。搭載されたバッテリーの容量は35kWhと大きくはない。

ロータス・エリーゼがベースのテスト車両。搭載されたバッテリーの容量は35kWhと大きくはない。

バッテリーを35kWhという比較的小容量に設定したのは、「(軽量スポーツカーと)コンパクトなバッテリーを組み合わせることで、低コストで高効率かつ十分な性能を提供できることをアピールするため」と説明されている。

実験に使用した急速充電器は出力350kW、車両側は800Vでオペレーションされている。結果はSOC10%〜80%までわずか“4分37秒”という途方もないスピードを達成した。また航続距離は、換算すると155マイル(WLTPモード:約249.45km)に相当するとのこと。しかも最初の4分間は500アンペアを維持することにも成功し、つまり4分間充電すればおよそ190kmの航続距離が回復できることになる。

画像: テスト車両の航続距離は約249.45km。継ぎ足し充電に時間がかからないのでこれで十分(?)。

テスト車両の航続距離は約249.45km。継ぎ足し充電に時間がかからないのでこれで十分(?)。

同社は1年以内にバッテリーシステムの少量生産を開始し、2025年にはそれを1000パックに増やす予定。将来は年間200万パックの生産も視野に入れているようだ。すでに自動車メーカー8社と同社の技術導入について協議しているというだけに、計画が実現する可能性はかなり高いと言えそうだ。そうなれば、自宅に充電設備が設置できなくても、ガソリンスタンドで給油する感覚で充電することができるようになる。

画像: 次世代電極素材には「ニオブ(Niob)」とよばれる希少金属を用いる。量産性は不明だ。

次世代電極素材には「ニオブ(Niob)」とよばれる希少金属を用いる。量産性は不明だ。

なお同社ではEVを生産する計画はなく、あくまで超急速充電バッテリー技術の供給に限定している。EVに限らず、ロボットや民生用機器などさまざまな領域での活用を意図しているようだ。

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