「EV事始め」の第三回目は「自然・再生可能エネルギー」についてです。EVを走らせるには電気が必要ですが、その電気にも出自はいろいろとあります。それはいったいどういう意味を持っているのか。そのあたりを探ってみました。(タイトル写真はイメージです)

日本は自国生産が不可能な化石燃料を使う発電に頼っている

EV(電気自動車)が走るには電気が必要です。ガソリン車が走るためにガソリンが必要なように。でも、なぜクルマが電気で走るのって子供なら考えますよね。ガソリンで走るというのも分かりにくいですが、ボンネットの中にあるエンジンを見れば、なんとなく理解できそう。でも、電気で回るモーターがクルマを動かすところは想像しにくい。だって、電気そのものが見えないからなあ。しかし、子供ではない我々はそこを理解しなくてはいけない。電気で回るモーターがクルマを動かしているという事実を・・・。

とまあ、「子供の科学」的な基本勉強を改めてするのも大切だけど、ここではもう一歩先を歩いてみよう。それは、EVは電気で動く乗り物だという大前提を認めた上で、ではその電気はどこから来るのか、という点だ。電線伝って、という話ではない。どこで電気はどのようにして生まれて、それがいまの社会でいかなる意味を持っているのかという話。多分、知らないことが出てくると思いますよ。

ではまず、発電の種類に関しては、皆さんがよく知っている火力発電、水力発電、原子力発電という3大発電があります。この3大発電で現在我が国の電力の84%をまかなっています。論文等ではエネルギー供給率と表記されていますが、詰まるところ電力の供給です。その中で最も多いのが火力(石油、石炭)。次がLNG(液化天然ガス)、そして原子力、水力・・・と続きます。火力発電は石油や石炭等の化石燃料を燃やして発電するシステムですが、原料の石油は中東から、石炭はオーストラリアや東南アジアからほぼ100%輸入に頼っています。

つまり、日本は自国生産が不可能な化石燃料を使う発電に頼っているということです。ただ問題は、日本が化石燃料のほぼ100%を輸入に頼っているという点ではありません。問題はその化石燃料が地球環境の悪化に影響を及ぼす二酸化炭素(CO2)を多く発生させるという点です。つまり、我々は地球環境の保全を叫びながら、地球環境を壊している。この矛盾をいかに解消させるかという点が,これからのエネルギー供給の焦点です。

そこで今回筆者が目をつけたのが、自然エネルギー(再生可能エネルギー)による発電です。これらのシステムは化石燃料を燃やして発電する現行の方式に比べ、地球環境保全に絶大な好影響をもたらすと考えるからです。多くの研究者や企業が研究中の技術であり、既に我が国のエネルギー供給の割合の何割かを占めているビジネスでもあります。しかし、強い関心を持っているのは研究開発者でありビジネスにつなげようとする人たちだけ。まだまだ我々一般人が理解するには難しい分野だといえるでしょう。そこで、EV素人の一人でもある筆者は、この新しいエネルギーについて考えてみることにしました。

EVのエネルギーである電力の基本を知っておくことは大切

ところで、自然エネルギー(再生可能エネルギー)とはどういうもの? そこからです。英語ではrenewableという。renew=更新する、再開する、という言葉の形容詞で、「再生可能な、更新できる」という意味を持ちます。つまり、使ってもすぐに次が作られるので減らない、と考えたらいいでしょう。太陽光や風力、水力、地熱などは太陽や地球が存在する限り減ることはない。自然界に常に存在するエネルギーだからです。これこそ再生可能なエネルギーで、その多くが自然に由来するので自然エネルギーとも呼ばれます。

それにしても自然エネルギーを発電に使おうと最初に考えた人は、どれだけ頭が良かったか。例えば太陽光を集めて発電する。普通の人はどうやればいいか見当も付かない。しかし、太陽の光を太陽光パネル(ソーラーパネル)と呼ばれる半導体素子に当てることで、光エネルギーが電気エネルギーに交換されることを知っている人には、無限に降り注ぐ太陽の光はそれこそ天の恵みだったのでしょう。この力を発電に使わない手はないと考え、太陽光を受けるパネル(ソーラーパネル)を半導体で出来ている太陽電池で構成したのです。

同じように風を大きな羽で受けて電気を起こすのが風力発電、地下のマグマの熱エネルギーを利用して発電するのが地熱発電です。水力発電は水の流れ(高所から落ちる力)を理由してタービンを回して発熱するのですが、これは降水量が多く水資源に恵まれている日本ならではでしょう。山岳地帯も多いことから山から落ちてくる河川が多く、ダムを造りやすい。砂漠の国とか平野に覆われている国では難しいでしょう。

では、なぜ自然エネルギーが歓迎されるのでしょう? それは、発電段階で二酸化炭素(CO2)等の温室効果ガスを排出しないからです。温室効果ガスは地球上で生物が存在するためには必要ですが、増えすぎると温暖化を引き起こし、地球上の温度(気温)は上昇、人間が住みにくくなるばかりか他の動植物の生態にも影響を及ぼします。

また、海水の酸性化、南極や北極の氷河の溶解による海面の上昇、山岳地帯の氷河の崩落・・・など地球に多くのダメージを与えます。化石燃料を使った発電は、こうした環境破壊の元となる温室効果ガスの過剰な増加をひきおこします。そこで、地球が壊れないためには何をするか? その答えのひとつが温室効果ガスを発生しない燃料を使っての発電です。太陽光、風力、水力などを使っての発電、つまり自然エネルギーによる発電がそれなのです。

ただ、問題もあります。自然エネルギーは天候に左右され、発電が出来にくくなることもあります。例えばこんなトリックのような連鎖があります。太陽光発電の場合、①まず地球温暖化が進んだとします。②すると気候変動が大きくなり、③悪天候が続きます。その結果④発電が出来にくくなり、⑤需給バランスが崩れるリスクが生まれるというわけです。風力の場合にも水力の場合にも悪天候が続くと同じように発電は出来にくくなります。

次に、発電コストが高いことです。太陽光発電の場合、日本でかかるコストはヨーロッパの2倍です。ソーラーパネルの設置に消費者の負担が大きいこともネックです。つまり、太陽光発電で得られた電気のコストは、我が国では13.1円/kWhにもなります(1時間に1kW発電するのに13.1円かかると言うことです)。中東の国の価格は3円/kWh。それに比べると4倍もの発電コストになっています。

3つ目の問題は、自然エネルギーは変換率が非情に低いことがあげられます。変換率とは作ったエネルギーを電力に変換できる割合です。例外は水力発電で、80%と非常に高い。しかし、そのほかの風力発電、太陽光発電、地熱発電などはいずれも14〜20%程度にとどまっています。化石燃料である石炭を燃やして発電する火力発電の55%と比べても、かなり見劣りすることが分かると思います。この先、自然エネルギー/再生可能エネルギーを伸ばしていく必要があることは、地球環境を考えた発電を必要とした日本において、避けられない道です。どの地域でどの自然エネルギーを選択するかという冷静な判断が国にも国民にも求められます。

ヨーロッパを初めとする国々では自然エネルギー発電が急テンポで進んでいます。それは、国民の、そして政府の地球環境に対する危機感の問題意識が高いからです。なぜ日本はそれが出来ない? この際、ヨーロッパの猿まねでもいいじゃないですか。我々の地球が窮地に陥るのを指をくわえて見ているわけにはいきません。よって、否が応でも迎えなければならないEV時代に向けて、EVのエネルギーである電力の基本を知っておくことは大切なことだと考えてこの原稿を書きました。EVを購入して自宅、あるいは出先の充電器で充電するとき、この電気はどこから来たのか考えてみてください。そして、EVを購入した理由を再確認してみてください。私たちの地球を守るために購入したのであれば、それは素晴らしい決断です。(了)

【資料】
■発電電力割合(2022年)
 ・日本国内の全発電電力量に占める自然エネルギー電力の割合は22.7%。
 ・太陽光発電の年間発電電力の割合は9.9%。
 ・風力発電の年間発電電力の割合は0.85%。
 ・水力発電の年間発電電力の割合は7.1%。
 (参考)
 ・化石燃料による火力発電の年間の発電電力量は72.4%。
 ・ヨーロッパでは自然エネルギーの年間発電電力量の割合が40%を超える国が多い。
  (EU27各国全体の平均は38.4%に達している。)
 ・中国では自然エネルギーの年間発電電力量は30.8%。

画像: 日本全体の電源構成(出典:環境エネルギー政策研究所)

日本全体の電源構成(出典:環境エネルギー政策研究所)

画像: 日本の全発電電力量に占める自然エネルギーの割合の推移

日本の全発電電力量に占める自然エネルギーの割合の推移

●著者プロフィール
赤井邦彦(あかいくにひこ)自動車雑誌編集部を腰掛け(!?)にしたあと1977年に渡英、4年間にわたって欧州の自動車事情、自動車レース(主としてF1)を取材。国内外の雑誌に寄稿。帰国してからは事務所を立ち上げ、自動車関連の分野を中心に海外取材コーディネート、広告コピー制作、単行本の執筆などを行う。現在、自動車レース関係のウエブサイトを主宰。英Guild of Motoring Writersの会員。

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