ナンバー1 スパークプラグメーカーの新たな挑戦
自動車やバイクに搭載されているエンジンは、おおまかに見て「吸気→圧縮→爆発→排気」を繰り返すことで動力を得ている。この4工程の中でもクルマを動かす力を発生させる「爆発」の部分で大きな役割を担っているのがスパークプラグで、混合気(燃料+空気)に着火するための火花を発生させている、ガソリンエンジンに欠かすことのできない部品である。
このスパークプラグの世界市場でシェアナンバー1を誇るのが「NGK」のブランドで知られる日本特殊陶業だが、ここ数年で起こった「エンジンを搭載しない、クルマのEV化」の機運の急速な高まりにより岐路に立たされている企業でもある。
![画像: 日本特殊陶業はスパークプラグ(左)やセンサー(右)のほかにも、半導体パッケージや超音波振動子などセラミックを使った製品を開発、製造している。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783662/rc/2024/03/27/a3f468782c152407588fca9b25b29e513a2712fe.jpg)
日本特殊陶業はスパークプラグ(左)やセンサー(右)のほかにも、半導体パッケージや超音波振動子などセラミックを使った製品を開発、製造している。
とはいえ、ここから先は2050年のカーボンニュートラル実現に向けて緩やかに進んでいくのではないかという見方もある。実際、日本特殊陶業は2020年に発表した長期経営計画の中で、内燃機関向けの製品による売上は2030年後半にピークを迎え、その後減少へ転じると予測している。
こうした現状と未来予測をもとに、内燃機関以外の分野における事業拡大を推進するとともに、内燃機関に関連した事業売上の割合を2020年の82%から、60%(2030年)、40%(2040年)に段階的に引き下げていくとしている。スパークプラグ開発で培ったセラミック技術による医療機器や産業製品、半導体パッケージなど古くから展開されている事業の他に、新たな領域での挑戦も進んでいる。
発電しすぎた、余剰電力を利活用するためのシステム
そのうちのひとつが、固体酸化物形セル(SOC:Solid Oxide Cell)を採用したエネルギーマネジメントシステム事業だという。この言葉だけではなんのことだかわからないが、「電気を使って水素を生成するSOEC」と「水素と空気を使って電気を生み出すSOFC」を組み合わせることで、電力の利活用を促進しようというシステムである。
近年カーボンニュートラルな社会実現のため再生可能エネルギーによる発電施設導入が進んでいるものの、太陽光や風力など自然由来の発電能力は環境によって増減し、電力の需給バランスにそぐわない状況も発生している。とくに余剰電力の利活用は社会的な課題にもなっており、その解決策のひとつとして注目されているのが、余剰電力を水素に変換して貯蔵し、必要なときに貯めた水素を使って発電するエネルギーマネジメントだという。
そこで日本特殊陶業は従来から持つ燃料電池技術を応用して、ひとつの機器(セルスタック)の中で水素製造(SOEC)と燃料電池による発電(SOFC)ができる「リバーシブルSOCシステム」を開発したのだ。
![画像1: 発電しすぎた、余剰電力を利活用するためのシステム](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783662/rc/2024/03/27/a881611a0354fea3fae2b09e22036753cfd2dbd0.jpg)
たとえば、夏季に住宅の太陽光パネルで発電した余剰電力を水素に変換(SOEC)・貯蔵し、冬季に不足する電力を貯めた水素による発電(SOFC)で補うことで、季節間の電力需給の調整ができるようになる。もちろん災害をはじめとする非常時の電源としての活躍も果たすことができるだろう。
リバーシブルSOCシステムはCO2をはじめとする温室効果ガスを排出しないため、カーボンニュートラル実現に欠かせない技術でありながら、ひとつの機器にまとめたコンパクト設計のため設置面積が小さくなるなどのメリットもあるという。
![画像2: 発電しすぎた、余剰電力を利活用するためのシステム](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783662/rc/2024/03/27/cbb34fb35c6cf1c7535e1839d5f48ccf644242ca.jpg)
現在、SOCシステムの耐久評価や電気変換効率の向上など、さまざまな実証や性能向上が行なわれている段階で、2025年度中の製品化を目指している。
こうした新事業を打ち立ててくる一方で、デンソーからスパークプラグ事業(とO2センサ事業)の譲受を検討中で、ナンバー1のスパークプラグメーカーという立場をより強固にする動きもある。日本特殊陶業の新展開が今後も注目される。