「空飛ぶクルマ(eVTOL)」とは、“クルマのように空を自由に移動できる電動の乗り物”。垂直方向で離着陸できるので滑走路が不要であり、ヘリコプターのような大きな音もしない。かつてはSFの世界、つまり絵空事だったまったく新しいモビリティは、その商用運航開始まで秒読み段階に入っている。(タイトル写真はANAが導入する米ジョビー・アビエーション社のeVTOL)

大阪・関西万博の実証実験を経て商用運航が始まる

契機となるのは、やはり2025年4月から開催される大阪・関西万博だ。この博覧会では、先日スズキと共同で空飛ぶクルマの量産を開始した「SkyDrive」、「ANAホールディングス」、「JAL」そして総合商社の「丸紅」が選定され大規模な実証実験が行われる。

SkyDriveはスズキと共同で量産型「SKYDRIVE SD-05」の生産を開始したのは3月11日の配信記事で報告済みだが、ANAホールディングス(ANAHD)、JAL(日本航空)、丸紅は海外eVTOLメーカーとのパートナーシップで空飛ぶクルマを商用運航・事業化していく。

●ANAホールディングス(ANAHD)
ANAHDは米ジョビー・アビエーション(Joby Aviation)社が開発を進める新型eVTOLを採用する予定。最大航続距離は約160km、最高速は約320km/hの5人乗り機を導入予定だ。

画像: ANAが導入するのは最大航続距離160kmを誇る米ジョビー・アビエーション社の新型eVTOL。同社はトヨタ自動車とも提携している。

ANAが導入するのは最大航続距離160kmを誇る米ジョビー・アビエーション社の新型eVTOL。同社はトヨタ自動車とも提携している。

●JAL(日本航空)
JALは2025年度から空飛ぶクルマによる旅客事業「JAL AIRTAXI」を計画している。導入する機種は現在検討中とのことだが、小回りの利くマルチコプター型と航続距離の長い固定翼型の2タイプを目的に応じて使い分けができるように準備を進めている。前者は独ヴォロコプター(Volocopter)社、後者は提携を結ぶ英バーティカル・エアロスペース(Vertical Aerospace)社から調達する可能性が高い。

画像: JALでは専用アプリも開発中。空港に行かずに空のモビリティが利用できるようになる。画像にはヴォロコプター社のエアタクシー「VoloCity(ヴォロシティー」が使用されている。

JALでは専用アプリも開発中。空港に行かずに空のモビリティが利用できるようになる。画像にはヴォロコプター社のエアタクシー「VoloCity(ヴォロシティー」が使用されている。

画像: 「VoloCity」は小回りの利く二人乗りの都市型エアタクシー。3月8日から12日まで大阪・グランフロント大阪で実物大モックアップが日本初公開された。

「VoloCity」は小回りの利く二人乗りの都市型エアタクシー。3月8日から12日まで大阪・グランフロント大阪で実物大モックアップが日本初公開された。

●丸紅
総合商社の丸紅も空飛ぶクルマ事業への参入を発表している。計画によれば、商用運行は2025年に関西圏から開始。当初は観光用からスタートして、医療用や災害救援、山間部などの過疎地の交通インフラとしても活用していく意向だ。機体は英バーティカル・エアロスペース社の新型機「VX4」を採用する。なお、丸紅は2023年3月に米LIFT社のひとり乗りeVTOL「HEXA」の有人実証実験を国内で初めて成功させている。

画像: 丸紅が採用するのは英バーティカル・エアロスペース社の固定型翼機「VX4」(写真はカットモデル)。

丸紅が採用するのは英バーティカル・エアロスペース社の固定型翼機「VX4」(写真はカットモデル)。

画像: 丸紅は2023年3月に大阪城公園内野球場にて国内初の有人実証実験を成功させた。(画像は丸紅のHP.より)

丸紅は2023年3月に大阪城公園内野球場にて国内初の有人実証実験を成功させた。(画像は丸紅のHP.より)

全国の自治体も「空飛ぶクルマ」に熱視線を注ぐ

自治体もその導入に向けて積極的に動いている。なかでも福島県に開設された「福島ロボットテストフィールド」は、国内有数の規模と充実した設備で業界筋ではつとに知られている。2020年春に空飛ぶクルマや物流ドローンの研究開発・試験設備として開設。東京ドーム約10個分に相当する約50hの広大な敷地には、世界最大規模研究施設および実験設備が整い、さらに南相馬から浪江に至る約13kmにおよぶリアルワールドの長距離試験飛行が可能な世界有数の開発拠点だ。

また、2024年3月11日には、茨城県のつくば航空と日本のスタートアップであるAirX社が、空飛ぶクルマの実証・インフラ拠点となる「つくば空飛ぶクルマ テストフィールド」を開設した。いよいよ関東圏でも「空飛ぶクルマ」の姿が見られるようになる。

画像: 3月11日に開設されたばかりの「つくば空飛ぶクルマ テストフィールド」では、関東初の研究開発・実験拠点だけではなく将来の管制システムの設置なども視野に入れられている。

3月11日に開設されたばかりの「つくば空飛ぶクルマ テストフィールド」では、関東初の研究開発・実験拠点だけではなく将来の管制システムの設置なども視野に入れられている。

他にも愛知県では空飛ぶクルマの開発・生産拠点となるべく、「豊田市ものづくり想像拠点 SENTAN」、「空飛ぶクルマ実証フィールド」のほか、2カ所の大規模ドローン実証実験場を開設。地元愛知県のスタートアップの実験支援を行なうなど、全国で研究開発体制の整備が着々と進められている。

画像: 気になるのは乗車料金。ヘリコプターをチャーターするよりはかなりリーズナブルに設定される可能性が高い。

気になるのは乗車料金。ヘリコプターをチャーターするよりはかなりリーズナブルに設定される可能性が高い。

電動モビリティといえばとかくEVにスポットが当たりがちだが、乗り物の電動化、パーソナル化はモビリティのあらゆる分野で急加速している。空飛ぶクルマに対しては“果たして本当にものになるのだろうか?”という声も聞こえてくるが、商用運航が始まり多くの事業者が本格参入してくれば、利用料金も下がり新たな乗り物として自ずと認知も広がるはずだ。

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