インドネシアの首都ジャカルタで2月15日から11日間にわたって「インドネシア国際モーターショー(IIMS)2024」が開催された。そこで目立ったのは中韓勢の攻勢だ。インドネシアは日本車が約9割を占める、いわば“日本車の牙城”。その状況がここへ来て大きく変わってきた。その背景には何があるのかを探った。

現地生産を進めるメーカーに優遇策

インドネシア自動車製造業者協会(ガイキンド)によれば、インドネシアの自動車市場規模は約100万台強あり、そのうち乗用車は78万台ほど。2023年の総販売台数は前年比4.2%下回ったが、それでも東南アジア最大の市場規模を持っていることに変わりはない。しかし、中韓勢の進出により、各社のシェアは明らかに状況が変わりつつあるようだ。

その中で着実にシェアを伸ばしてきたのが韓国ヒョンデだ。2022年の3万1965台から2023年は3万5500台と前年比で10%ほど販売台数を増やし、順位も8位から6位へと躍進した。中国車も確実に浸透し始めている。チェリーは前年がほぼゼロだったが、2023年は4099台販売して13位にランクアップ。同じ中国のMG(Morris Garage)は順位こそ20位から21位へと下げたものの、販売台数は974台から1183台と20%ほど増やしている。

画像: ヒョンデは日本で展開する「コナ」(上)、「アイオニック5」以外にガソリン車も展開しシェア拡大を図る。

ヒョンデは日本で展開する「コナ」(上)、「アイオニック5」以外にガソリン車も展開しシェア拡大を図る。

中韓勢が販売実績を伸ばすと、その影響を受けるのは日本車だ。日本車は長いこと9割を超えるシェアを握っていたが、2023年はついにシェアを9割下回ってしまったのだ。まさにインドネシアに中韓勢が“黒船”として乗り込んできた感があるが、その背景には一体何があったのだろうか。理由には大きく2つあると思う。

一つはインドネシア政府が現地生産を進めるメーカーに対する優遇政策がある。インドネシア政府は2023年に現地調達率40%を満たした車種に対して付加価値税を減免する支援策を実施。その上でこの国産部品を使用した現地生産を条件に、EVの完成車輸入に対しても優遇することを決めた。つまり、BYDとVinFastはこの支援策を受けることでインドネシア参入を決定しているのだ。

韓国のヒョンデもすでにEVの現地生産を始めることを表明しており、ハイブリッド車(HV)を重視する日系メーカーと立場を違えることでインドネシア市場でのシェア拡大を目指す考えとみられる。

中国メーカーが自国内減速で海外強化

もう一つは、中国経済の減速が少なからず影響していることだ。これまで中国国内でのEV販売は、補助金など政府の後押しを受けて急成長を続けてきたが、その政策も一昨年末に終了したことで販売のペースは明らかに落ち込んでいる。そのまま中国国内にとどまっていたのでは、メーカー各社が掲げる成長目標達成に届かないのは明らかだ。

そうした矢先、タイやインドネシアなど東南アジアの主要国においてEVに対する数々の優遇策が適用されることとなった。本来なら割高となるEVだが、この政策が適用されることでガソリン車とほぼ同等で販売できるようになり、中国国内での販売減速をカバーするため東南アジアへの進出には大きな意味がある。中国政府も「一帯一路」の国家戦略の一環として後押ししており、これが中国のEVメーカーが東南アジアを積極的に目指す理由となっている。

ただ、EVがコンスタントに売れ続けるのかと言えばそうとも言えない。インドネシアのEV販売で先鞭をつけたのは中国のウーリンで、2022年夏に発表したコンパクトEV「AitEV」が2022年夏に発売した直後は富裕層のセカンドカーとして人気を博した。しかし、2023年になると需要が一巡したのか、徐々に販売台数は減り続け、その結果、2023年の販売台数は2割以上も減少。シェアも2.9%から2.3%に落としてしまった。それでもウーリンはガソリン車をラインナップしていたことからその程度で済んだと見る向きは多い。

その状況を反映しているかのように、電動車としてハイブリッド車を据えるトヨタは2022年が31.6%だったシェアを33.5%に、ダイハツに続く3位のやホンダも2022年の12.5%から23年は13.8%へとむしろ拡大しているのだ。つまり、EVの需要は都市部に住む一部の富裕層の足としてみるべきで、広い国土を持つインドネシア全体として考えれば充電インフラがほとんどない状況でEVの普及はそう簡単には進まないのが現状なのだ。

画像: ホンダはガソリン車を中心にコンパクトカーやSUVを出展。写真のアコードのようなハイブリッド車にも力を入れる。

ホンダはガソリン車を中心にコンパクトカーやSUVを出展。写真のアコードのようなハイブリッド車にも力を入れる。

BYDとVinfastがついに進出してきた

そうした中にあって、中韓勢進出のあおりを受けているのが三菱やスズキだ。三菱は2022年に9.5%あったシェアが7.7%%に、スズキも8.6%から8.1%に落としている。一応、シェア順位こそ5番目以内にとどまったが、背後にはヒョンデが間近に迫っており、両社の心中は穏やかではないはずだ。

そうした中で三菱は、2023年に新型SUV「エクスフォース」を発売。インドネシア国内で生産し、2024年にはアセアン地区への輸出も開始した。一方のスズキは、インドネシアで根強い人気を保ってきたジムニーの「5ドア」をインドから輸入して販売することを発表。IIMS2024ではかつてない広さの会場を使ってその姿を披露し、屋外ではオフロード体験もできる特設コーナーを用意して注目を集めた。

そうした熾烈なシェア競争が続くインドネシアにBYDとVinFastが参入する。VinFastについては価格次第で一定の需要はあるかもしれないが、EVのターゲットである富裕層はブランドへのこだわりも強い。それだけに「怖いのはやはりBYD」と関係者は口を揃える。すでにBYDは欧州やタイなどでも実績を残し始めているからだ。

画像: インドネシア初参入のBYDは、日本と同様にEVである「ATTO3」、「ドルフィン」、「シール」の3車種を投入すると発表した。

インドネシア初参入のBYDは、日本と同様にEVである「ATTO3」、「ドルフィン」、「シール」の3車種を投入すると発表した。

BYDジャパンの代表取締役社長で、アジア太平洋地域自動車販売を統括する劉 学亮氏は、IIMS2024でのプレスカンファレンス後のインタビューで、「(日本やタイなどと共に)右ハンドル車市場に向けて共通の車種で攻勢をかけていく。インドネシアは現地生産に向けて国としてEV普及に力を入れており、すべてが電気自動車にならないまでもいずれはEVに向いてくると考えている」と述べ、インドネシアでの販売に向けてその可能性に言及した。

日本メーカーがEVに対して様子見を決め込むインドネシアで、積極的にEVで攻める中韓勢。果たしてBYDの参入はその弾みとなるのか。1年後のインドネシアでEVの市場動向に注目していきたい。

●著者プロフィール
会田 肇(あいだ はじめ)1956年、茨城県生まれ。大学卒業後、自動車雑誌編集者を経てフリーとなる。自動車系メディアからモノ系メディアを中心にカーナビやドライブレコーダーなどを取材・執筆する一方で、先進運転支援システム(ADAS)などITS関連にも積極的に取材活動を展開。モーターショーやITS世界会議などイベント取材では海外にまで足を伸ばす。日本自動車ジャーナリスト協会会員。デジタルカメラグランプリ審査員。

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