9月4日から、ドイツのミュンヘンで「IAAモビリティ」と称するモーターショーが開催されます。筆者も取材に行きますが、それに先立ちドイツの今年の自動車マーケット状況を見てみます。ドイツでは、2030年までに1500万台のEVを路上に走らせるという政府の野心的な目標がありますが、それに向けたペースで電動車の販売は進んでいるのでしょうか。(タイトル写真はアウディQ4 e-tron)

EVの販売は増加するも、期待を下回る状況

2023年1〜7月のドイツの乗用車市場は、1,640,147台(+13.6%)と前年同期を2桁上回るペースです。しかし、これはEU市場全体の+17%には見劣りします。年率6%超のインフレやエネルギーの高騰が消費の足を引っ張り、自動車市場も今ひとつ力強さに欠けているようです。米調査会社S&Pグローバルモビリティは、ドイツの乗用車販売は下半期に減速し、年間では280万台(+3%)程度で着地すると予測。2024年も若干の成長を予想していますが、過去最高だった2019年の360万台には遠く及びません。

注目のEVの販売動向ですが、ドイツのKBA (連邦自動車庁)は3種類の登録データを公表しています。
・代替駆動車ーBEV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド)、HEV(ハイブリッド車。マイルドハイブリッド車を含む)、天然ガス車、燃料電池車(FC)の合計。
・電動車(BEV、PHEV、FC)
・BEVのみ

これを見ると、今年の7カ月間のBEVの販売台数は268,926台でシェアは前年同期比で13.6%→16.4%と増加していますが、電動車では台数は微増なるもシェアは24.9%→22.1%と減少しています。これは昨年末限りで補助金が廃止されたPHEVが減少しているのが主な原因です。

ドイツ通信(dpa)は8月22日の記事で、「2030年までに1500万台のBEVを走らせるドイツ政府の目標達成には、今年75万台のBEVの販売が必要な計算になるが、せいぜい45万台程度の見通し」という研究機関の分析を紹介しています。現在ドイツ路上のBEVの台数は120万台で総保有台数(4,900万台)の2.4%に過ぎず、この販売ペースだと2030年には目標の半分の700〜800万台程度との見方を示しています。

代替駆動車全体では半数に近づく

BEVの販売は期待通りではないようですが、代替駆動車という括りでは、シェアは45.7%と販売の半数に迫っています。ドイツプレミアムメーカーではエンジン車の48Vマイルドハイブリッド化が進んでいることや、日本車や韓国メーカーのフルハイブリッド車もこれに貢献しています。

画像: (KBAのデータより)

(KBAのデータより)

これらの数字をドイツ主要ブランドごとにみると以下のようになります。フォルクスワーゲンはBEV以外の代替駆動車が少なく、メルセデスベンツは逆に、BEV以外のPHEVやMHEVモデルが多いことがわかります(アウディは天然ガス車g-tronも貢献)。

画像: (BEVや電動車の台数は代替駆動車の内数)

(BEVや電動車の台数は代替駆動車の内数)

国内メーカーが65%を占めるドイツ市場

次にブランド別の販売ランキングを見てみましょう。トップのフォルクスワーゲン(18.4%)を筆頭にドイツ勢が上位を独占し、圧倒的な強さを示しています。VWグループのSkodaとSEAT、欧州本社がケルンにあるフォードを入れるとドイツ勢のシェアは65%に上ります。

画像: (Citroen/DS以下は省略)

(Citroen/DS以下は省略)

隣国のフランス勢は、ルノーグループのダチア(Dacia)を含めて7.8%(Fiatなどステランティスグループのイタリア車は除く)、ヒョンデ/KIAが6.3%、日本勢はシェア2.9%のトヨタを筆頭にマツダ、日産、スズキ、三菱、ホンダ、スバルを足して計7.3%です(フランス市場も、ステランティスGr.とルノーGr.を合わせるとシェア50%超と国内ブランドが強いですが、ドイツ勢も23%のシェアがあります)。 

こうしてみると、かつては世界三大ショーの一つに数えられ、日・米・欧の自動車メーカーが競演した2年に一度のドイツのモーターショー(2021年にミュンヘンに変更されるまではフランクフルトで開催)も、新車発表などのデジタル配信が可能になった今、ドイツ以外のブランドの出展がほとんどなくなってしまったのも理解できそうです。

ちなみに、EVを牽引するテスラのドイツの販売(1〜7月)は40,289台でシェア2.5%、中国勢は上海汽車傘下のMGが11,638台で0.7%で、Lync & Co.や今年販売を始めたBYDやNIOを入れても1%に届きません。これら中国勢は、いずれも今回のミュンヘンショーに出展します。果たしてどのような戦略でドイツ車好きの国民にアピールするのでしょうか。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。

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